18年に大ヒットした映画「カメラを止めるな!」を12年のアカデミー賞5部門受賞の映画「アーティスト」のミシェル・アザナヴィシウス監督(55)がリメークした仏映画「キャメラを止めるな!」が、7月15日に公開される。今年のカンヌ映画祭のオープニング作品にも選ばれた話題作に、ただ1人前作から連続出演する、どんぐり改め女優竹原芳子(62)に心境を聞いてみた。

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「カメラ-」は製作費300万円で6日間限定公開で始まり、ブームを巻き起こし社会現象となって動員220万人、興収31億円の大ヒットとなった上田慎一郎監督(38)の作品。前半は37分間ノーカットでB級ホラーテイストのゾンビドラマを上映、後半は約1時間にわたり製作に関わる人たちをコメディータッチで描いた。

竹原は「カメラ-」ではどんぐりの芸名でコテコテの関西弁のテレビプロデューサーを演じた。21年3月に芸名を本名と同じ竹原芳子にして、「キャメラ-」では原作の変更をかたくなに拒む日本のプロデューサー、マダム・マツダを演じた。「去年の1月にリメークの話をいただいた。びっくりしたけど、フランスへ行けると思って、すぐに承知のお返事をしました。台本では私の日本語が標準語になっていたので、大阪弁の元気なおばちゃんにしてもらってやりやすくなりました」と振り返る。

昨年5月にパリで、5日間で出番を撮影した。「通訳の方もいてくださったけど、フランス語なんか『メルシー・ボク』と『ボンジュール』しかしゃべらなくてもコミュニケーション取れるんですよ」。アカデミー監督賞のアザナヴィシウス監督も「すごくいい方で、スタッフも共演者もスムーズに受け入れてくれました。楽しい5日間でしたね」。今年5月のカンヌ映画祭でオープニング上映。「撮り終えて初めて見た時は、自分の出番ばかり気になって客観的に見られなかったんです。でも、カンヌの会場で見た時に、すごいことなんやって改めて実感できました」と笑顔を見せた。

短大卒業後に証券会社営業、裁判所事務官などを経て、50歳の時に「クリエーティブな仕事をやりたい」と吉本興業の養成所NSCに入った。「昔見た大河ドラマの織田信長は50歳で死んだ。だったら第2の人生を歩もうと思った。同期はコロコロチキチキペッパーズ。仕事で2回くらい一緒になって『ほんまによかったな』ってお互いに言えたのがうれしかったですね」。

落語に挑戦したりするなかで、57歳の時に制作会社ENBUゼミナールのプロジェクトに参加して「カメラ-」に出演。「撮影が終わった時に、次は何をやろうかと思って、30歳くらいの時に友達と2人で行ったスイスのマッターホルンを見に、1人で“自分探しの旅”に行きました。58歳になってました」。人生100年時代、アラ還でつかんだ大ヒット映画出演の次を探していた。

「そしたら『キャメラ-』出演の話が来た。『舞台あいさつをカンヌで』とか冗談で言ってたのに実現した。人生のキャメラも止めなければ、何でも可能性はあるんです」と言い切る。

始まったばかりの女優業で「動物が好きなので、北海道で動物と暮らすような役にチャレンジしたい」と意欲を見せる。そして「ずっと、自分にあった職を探し求めて生きてきたので、結婚なんて考えてもみなかった。でも、自由奔放にやってもいいよって言ってくれる人がいるなら」。そう言って“アラ還のシンデレラ”は、頬を染めた。【小谷野俊哉】

 

◆竹原芳子(たけはら・よしこ)1960年(昭35)2月10日、大阪生まれ。80年に短大を卒業して証券会社に。93年退社して派遣社員に。00年裁判所事務官に転職。10年NSC大阪入所。16年「劇団間座」で女優デビュー。19年フジテレビ「ルパンの娘」に出演。趣味は山歩きと神社仏閣巡り。身長150センチ。血液型B。