ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領の支持者として知られ、ロシア国籍を持つ米アクション俳優スティーブン・セガール(70)が9日、先月29日に爆撃されたウクライナ東部ドネツク州の新ロシア派支配地域にある捕虜収容所を訪れ、ウクライナ軍による攻撃だと批判していることが分かった。

捕虜50人以上が死亡し、多数の負傷者が出ている爆撃を巡っては、ウクライナとロシアが互いの攻撃を主張しているが、米情報当局はロシアによる証拠捏造(ねつぞう)であるとの認識を示していることが伝えられている。そんな中、セガールが攻撃された施設を視察する様子をロシアのメディアが公開した。

ロシアはウクライナ軍が米国が提供した高速機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)を使って収容所を攻撃したと主張しており、人道分野での対米関係を担うロシア外務省の特使に任命されているセガールは、HIMARS使用に抗議するため現地入りしたと米メディアは伝えている。公開された1分弱のビデオでセガールは、「間違いなくロケットによる攻撃のようだ。燃焼などの詳細を見れば、これが爆弾によるものではないと分かる。ここはHIMARSが攻撃した場所で、50人が死亡し、70人が負傷した」と語っている。セガールが話す英語はロシア語に吹き替えられているが、「ウクライナのゼレンスキー大統領は、収容されているナチスの口を封じるため、HIMARSを使用した」とも述べていると米メディアは伝えている。

収容所にはウクライナ南部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所での攻防戦の末に捕虜になったアゾフ連隊の兵士も収容されていたとみられているが、ウクライナはロシアが捕虜への拷問や殺害などの証拠を隠蔽(いんぺい)するために攻撃したと主張している。しかし、ロシアはアゾフ連隊について「ロシア系住民を抑圧するネオナチ集団」と批判しており、セガールは「興味深いのは(攻撃で)死亡したナチスの1人が、ゼレンスキー大統領についてたくさん話し始めていたことだ。彼はジュネーブ条約に違反するだけでなく、拷問やその他の残虐行為など人道に対する命令の責任がある」と述べ、攻撃はウクライナ側のアゾフ隊への拷問の隠蔽工作であると主張している。

専門家は画像からは損傷の原因を断定することはできないものの、HIMARSによる攻撃を裏付けるような破片の跡やクレーターなどはないと指摘している。

かつてプーチン大統領を「最も偉大な世界のリーダーの1人」と称賛していたセガールは、2月にロシアがウクライナへの侵攻を始めた直後にロシア軍に入隊してウクライナ軍と戦っているとの偽情報がネットで拡散されて話題になっていた。(ロサンゼルス=千歳香奈子通信員)