「古事記」に記された「海彦山彦」伝説に由来する「サンダ対ガイラ」(66年)は、東宝怪獣映画の中でもかなりユニークな作品だ。マニアックなファンの中でも、この映画をマイベスト10に入れる人は稀だろう。

10年前のアカデミー賞授賞式でのスピーチで「幼いときに見た『サンダ対ガイラ』の東京でのクライマックス・シーンで、良い怪獣が人類のために自分を犠牲にしたところに感銘を受けた」と、このニッチな作品への並々ならぬ思いを明かしたのがブラッド・ピット(58)だ。

ビッグネームの割には「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」や「ワールド・ウォーZ」のような怪奇色の濃い作品に好んで出てきたのは、幼い頃に見た「サンダ-」の影響のような気がするし、何より新作「ブレット・トレイン」のPRで3年ぶり14回目の来日を果たしたこの人の「日本愛」の奥の深さを感じさせる。

26年前の初来日会見の時の様子は良く覚えている。隣に座るジャン=ジャック・アノー監督の天然パーマ頭をモフモフと触りながら「クレイジーなヘアスタイルでしょ」とおどけたり、持参したカメラで、会見中に通訳を担当した字幕翻訳家・戸田奈津子さんを撮影したり…初めての日本に躍る心を隠しきれない様子だった。

「日本の庭園や建築など、いろんなデザインに興味があるし、知りたいことはいっぱいあります」というコメントも印象に残っている。

今回の映画の舞台になった東京→京都の新幹線を使ったキャンペーンでも、楽しそうな笑顔ばかりが報じられた。彼にとっては大好きな日本でのPR活動は「仕事」とは思えなかったのだろう。

ちなみに殺し屋にふんした今作では、新幹線の車内がまるで「ホームグラウンド」であるように軽快なアクションを披露している。【相原斎】