俳優の渡辺徹(わたなべ・とおる)さんが11月28日、敗血症のため亡くなった。61歳だった。所属事務所の発表によると先月20日に発熱、腹痛などの症状が出たために都内の病院に受診したところ、細菌性胃腸炎と診断され入院。その後、敗血症と診断され治療を受けていたという。

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渡辺さんは気配りの人だった。10年ほど前、俳優として活躍する長男渡辺裕太が主宰する劇団公演を取材した時、直後に渡辺さんから「裕太の舞台、これからもよろしくお願いします」と丁寧な文面の手紙をいただいたことがあった。

舞台人として生きた人だった。20代でドラマ「太陽にほえろ!」で人気者になった。文学座に所属して、テレビ、映画で人気を得ると退団する人が多かったが、渡辺さんは文学座一筋で、外からの誘いにもわき目を振らなかった。よく口にしたのは「若い頃に大物俳優の方と共演した時、文学座という看板のおかげで優しく接してもらった」という劇団への感謝の言葉だった。多忙な中でも年1回の劇団公演への出演を欠かさず、大先輩の名優北村和夫さんの主演舞台「花咲くチェリー」を継承するなど、文学座を支える大きな柱になっていた。ここ数年、城西国際大の特任教授、東京芸大の非常勤講師などを務め、ワークショップで演技指導をしていた。根っからの舞台人だった。

お笑いが好きだった。バラエティー番組のMCを務める中でお笑い芸人の飲み仲間、食事仲間が増え、7年前から自らプロデュースしたお笑いライブ「徹座」を行っていた。サンドウィッチマン、ナイツら人気者が出演し、妻の榊原が裏方の楽屋番を務めるなど、「僕のライフワーク」と公言するほど大事にしていた。

愛妻家だった。渡辺さんは高校時代に自室の壁に人気アイドルだった榊原のポスターを飾るほどのファンだった。4年後、ドラマ共演をきっかけに交際に発展。人気者同士の恋愛は難しい時代に、渡辺さんは周囲を粘り強く説得してゴールインを果たし、その結婚式はテレビで生中継された。糖尿病による病気続きの渡辺さんを、榊原はケンカになるほどの徹底的な健康管理でサポートした。デビュー40周年の昨年、親子3人で朗読劇「家庭内文通」に共演し、渡辺さんは「(榊原は)いないと困る存在」と言うほど頼りにしていた。文字通りのおしどり夫婦だった。【林尚之】

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