韓国のポン・ジュノ監督(53)の米アカデミー賞4冠映画を舞台化する「パラサイト」(6月5日~7月2日まで東京・THEATER MILANO-Za、7月7日~17日まで大阪・新歌舞伎座)に、古田新太(57)宮沢氷魚(28)伊藤沙莉(28)江口のりこ(42)が出演し、家族を演じることが19日、分かった。地下のように一日中、日がささないトタン屋根の集落で、靴作りで生計を立てる金田家を演じる。映画で描かれた、半地下に住むキム家に当たる役どころとなる。

古田は「面白い映画でしたし、僕は好きでした…ぶっちゃけ、僕はソン・ガンホが好きなので」と、まず原作である映画版を評価した。その上で09年の「焼肉ドラゴン」で知られる、台本・演出の鄭義信氏(65)とのタッグについて「『焼肉ドラゴン』を見て、鄭さんのファンだったので…でも、お声がけいただくたびに、やりたいと言っているのに、うまくハマらないのが、ずっと続いていて。今回はやった、という感じ」と、手放しで喜んだ。

古田が演じる金田文平は、映画でソン・ガンホ(56)が演じたキム・ギテクにあたる一家の主だ。古田は、22年に主演映画「空白」の公開時に“日本のソン・ガンホ”などと報じられた件を引き合いに「『“日本のソン・ガンホ”は古田しかいない』みたいなことを言われていて。けど…ガンホの方が1こ、年下」と声を大にした。その上で「向こうが“韓国の古田新太”と言わなきゃいけない。やるからには、それだけは言っておかないと」と豪語した。

宮沢は「日本で、かなりの人が見ている映画。期待値が上がっている。大阪弁のセリフ含め、ハードルが高いので覚悟を持ち、やっていきたい」と舞台版出演への、並々ならぬ意気込みを示した。演じる文平の息子・順平は、チェ・ウシクが演じたギウに当たる役どころだ。「(高台に住むセレブ一家に寄生する)計画を立てて、それに家族が乗っかって物語が進んでいく。僕が演じる役が、2つの家族を結び付ける…ストーリーの軸ですからね。うまく家族を同じ方向に向かせる役割を担っているので、そこはブレずにやっていきたい」と役作りの方向性を語った。

江口、伊藤と4人家族を演じることについて、古田は「うちの家族はクセが強い。宮沢君はハンサム。それに、のりちゃんと沙莉ちゃんでしょ…何だ、この家族」と笑った。宮沢は「みんな、主演を張るくらいのキャストがそろっている。どう、ぶつかっていくか楽しみ。濃い舞台になると思うので自分も負けないように頑張らないといけない」と意気込んだ。

舞台を、映画版の韓国・ソウルから、90年代の関西の、堤防の下にある集落に移して描く。鄭氏は「韓国だと、半地下の住宅がある地区は実際にある。日本に置き換えた場合、どこがいいかと考えた時、阪神淡路大震災の際、三宮の辺りは壊滅状態になったけれど、北野の辺りは微動だにしなかった。そこで、映画の持っている貧富の差を、うまく表せないかな、と」と説明。その上で「だから震災で全て失った、という形で考えています」と、1995年(平7)1月17日に発生した阪神・淡路大震災から着想した設定であると説明した。

古田は「ちょうど、うちの娘が生まれた時で、かみさんが出産で大阪に帰っていた。僕は東京だったんですけど、友達から『テレビを見なさい』と言われて…電話もつながらなかった」と阪神・淡路大震災発生当時を振り返った。その上で「神戸の実家が半壊しちゃったから。住むところがなくなった人間は、どうするんだよ…という話になっていたね」と、鄭氏が想定した舞台の設定と重なる記憶を、思い起こした。

米国生まれの宮沢は、阪神・淡路大震災発生当時は生後8カ月だったため、記憶には残っていない。ただ、11年の東日本大震災当時は日本におり「友達の東北の家族が危険にさらされたりした状況は、自分もじかに経験した」と振り返った。その上で、役作りについて「自分のイメージや経験からしか作ることは出来ない。そこから想像を広げて作っていきたい」と語った。また「災害ではないですけれども、ウクライナの戦争などで難民が増える中、帰る場所を失った方が日に日に増えている。そういった方々の思いも乗せていけたら」と、ロシアのウクライナ侵攻をはじめ国際社会の問題をも視野に入れ、役作りをしていく考えを強調した。

大きなハードルと考えているのが、大阪弁のせりふだ。宮沢は「驚きましたね。(大阪弁は)テレビで見ていて、流れてくる。変になじみがあるからこそ、逆に難しい。間違った覚え方をしているものが、邪魔しないかどうか、しっかりと皆さんの力を借りてやってみたい」と真摯(しんし)に語った。

鄭氏は「韓国のキャストで上演したい気持ちがあるし、日本のキャストそのままで韓国に持っていくバージョンも、あって面白い」と韓国での上演も視野に入れている。古田は「向こう(韓国)でも、すごく期待値もあるだろうし、文化が違うので大丈夫なのか? みたいなところもあると思うんですよ。関西に置き換えている時点で、日本の話になるわけだから…向こうの人がやっても面白いし、日本人キャストがやっても、それなりに楽しめると思う」と期待感を示した。【村上幸将】

 

◆「パラサイト」 金田文平(古田)の息子・順平(宮沢)は、妹美妃(伊藤)が偽造した大学の在籍証明を利用し高台の豪邸に住む永井慎太郎の娘・繭子の家庭教師を始める。美妃は永井の息子・健太郎のアートセラピーの教師で、慎太郎の運転手や家政婦がクビになるよう仕向け、後釜には文平と妻の福子(江口)が…金田家は永井家に、次第に寄生していく。

 

<金田家キャストコメント>

古田新太(金田文平役)“日本のソン・ガンホ”と呼ばれることも多いオイラが、ついに彼と同じ役を演じる日が来ました。とはいえガンホさんが1こ下ですから、本来“韓国の古田新太”と言われてしかるべきじゃないかと! でも彼のファンでもあるので、稽古前に映画を見直して完コピしようかな? と、もくろんでいます(笑い)。そして、これまでもオファーをいただきながら、スケジュールが合わずなかなかご一緒できなかった鄭義信さんの作品に、やっと出演がかないます。鄭さんらしい、分厚い人間ドラマになるんじゃないでしょうか。同時代を生きてきたインディーズ出身の演劇人たち、そして才能豊かな若手がそろう座組みを、鄭さんが料理する舞台、どうぞ期待値マックスで足をお運びください。

 

宮沢氷魚(金田順平役)今回、世界的ヒットを果たした「パラサイト」の舞台に出演させて頂けることをとても光栄に思います。個人的に大好きな映画であり、新劇場でどのように舞台化をするのか楽しみで仕方がありません。鄭さんの作品は映画「焼肉ドラゴン」、舞台「僕は歌う、青空とコーラと君のために」をはじめいくつか拝見しましたがどれも傑作で、鄭さんに演出して頂けることを楽しみにしています。世界情勢が不安定で、格差がどんどん開いていく今だからこそ、この作品を届ける意義があると信じています。1人でも多くの方にこの作品を見ていただきたいです。

 

伊藤沙莉(金田美妃役)映画館でもテレビでもサブスクでも、何度も見た大好きな映画、そしてファンの方も多い作品の舞台化に参加できる喜びと緊張で震えています。たくましく懸命に生きる人間を、アツく優しく描く鄭さんの舞台に初めて出演したのは、私がまだ20歳そこそこの時でした。この挑戦的な舞台で再びご一緒できることにも運命を感じています。さらに素晴らしい共演者そろいですから、これは面白いものになる予感しかしません! あの世界をどう生のステージで表現するのか、まだ全く想像できていませんが、皆様の期待を裏切らない、そしていい意味で裏切る作品になれば……と思います。ぜひ劇場に確かめにいらしてください。

 

江口のりこ(金田福子役)自分が若手時代に出演した、ドラマ『すみれの花咲く頃』(2007)や映画『信さん・炭坑町のセレナーデ』(2010)といった、映像作品の脚本を手掛けていた鄭さんと初めて舞台でご一緒できることが、まずはとてもうれしいです。座組みには古田さんという頼れるアニキがいますし、何があっても大丈夫という大いなる安心感! キャスティングを眺めていると、ふと「(夫役を演じる)古田さんと私から、果たして宮沢氷魚さんが生まれるのか?」と疑問もわきますが(笑)、映像で共演経験もある宮沢さんが、この役をどう演じられるのかも楽しみの1つです。とにかく頑張りますので、ぜひ見にいらしてください。