2018年(平30)9月から順次、全国のコンビニで発売が停止された、成人男性向け雑誌の編集部を描いた映画「グッドバイ、バッドマガジンズ」(横山翔一監督)が、話題を呼んでいる。独特な世界の舞台裏をリアルに描きながらも、社会で働き、もまれる全ての人が悩むであろう組織で働く中での理不尽さ、壁などを描いた普遍性が受け、東京・テアトル新宿で22年10月に行われた1週間限定上映は連日、満席。その反響を受けて、1月20日から全国で順次上映と拡大公開中だ。

新人編集者の森詩織を演じた主演の杏花(23)先輩編集者の向井英を演じたヤマダユウスケ(35)セクシー女優の経験もあるライターのハルを演じた架乃ゆら(24)女性編集長の澤木はるかを演じた春日井静奈(44)が、全国順次上映を記念し、座談会を開催。一見、女性が入りにくいテーマに見えながら、女性の生き方が描かれていることなど、作品の魅力を存分に語った。【村上幸将】

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「グッドバイ、バッドマガジンズ」は、電子出版の台頭による出版不況、コンビニからの成人誌撤退、追い打ちをかけるように起きた新型コロナウイルス感染拡大など、激動の時代を生きた成人男性向け雑誌の編集部の人々にスポットを当てた、業界内幕エンターテインメントだ。成人男性向け雑誌の編集部で実際に働いていた宮嶋信光プロデューサーの実話を元に、同プロデューサーと、映像制作会社で働いていた横山翔一監督(35)と脚本の山本健介氏が3人で、約30人の業界関係者を取材するなどした実話を元に、オリジナルの脚本を作り上げた。

-全国に上映が拡大された

杏花 今まで、いろいろな方から、すごいたくさん感想もらったりした中で、さらに、どういうふうに広がるか…楽しみとワクワク。不安はないですね。

ヤマダ 僕は、不安しかないですね。どうやって皆さんが見に来るのかなと思って。すごいうれしいんですけど、それを上回る不安が、だんだん…。大ごとになってきたな、と。

架乃 私は、すごくうれしくて。テアトル新宿で1週間、限定上映だったのが全国に…。期間中に見られなかった人が、見に行けるのがうれしい。もっと、いろいろな人に知って欲しいお話なので。

春日井 リハから作っているのを見ていたけれど、自分たちでやっている感が、すごくある現場。キャスト、スタッフが一丸となって、キャストをやりながら、スタッフもやったりしていて…本当に自主映画。チームワークが、すごく良かったし、嫌な感じが1回もなかった。こういうことになる作品は初めて。この展開(全国拡大上映)はうれしい。

杏花 全員、愛を持って1つの作品に向かっている感じが心地よい現場でした。

-普段から編集部にいるような一体感

春日井 そうですよね。オフィスのシーンは、完全に“ずっと働いている方”という感じですよね(笑い)。リハーサルは、すごい、やりました。監督もこだわって、撮りたい映像が撮れるまで、やっていたと思います。

杏花 (脚本、物語が)監督とプロデューサーの実話、実体験に基づいているので、そこ(成人男性向け雑誌の編集部)にいた人たちの話を聞きながら、そういう関係性だと(考えて役作りした)。あとは、自分だったら、こうだよなという、オリジナリティーを交えながら、リハーサルを積んでいったものを撮影した感じ。ディスカッションは、すごく、させてもらえる現場でした。

-そこまで話し合える時間があるほど、撮影期間は確保されていたのか?

架乃  全体で言うと、短かったです。

杏花 3週間くらいですか?

宮嶋プロデューサー 2週間です。

杏花 撮影前も、撮影が始まってからも「私は、こう思うんですけど」という話し合いをしながら、どんどんブラッシュアップしていった感じでした。

-一見、女性が入りにくそうな題材、テーマでありながら、フタを開けてみれば女性編集者、ライター同士の関係性が描かれ、女性映画とも言える

杏花 女性にこそ、見て欲しいところはありますね。

春日井 確かに、そうですね。何だろう…逆に、普段と全然違うテーマ、環境なのでポンッと入る感じ。ただ、言っている言葉が普段とは違うので、家で練習すると、子どもが覚えて、まねしていたり…いけない、いけないと…。なかなか、家では練習しにくい(笑い)。

-推しポイントは?

杏花 登場人物、1人1人が魅力的。たった1人の人…それぞれ、みんなが社会と自分に向かって、一生懸命、ずぶとく生きていく模様が、群像劇でもありながら魅力だと思っていて。現実に基づいた話だからこそ(登場人物)1人1人のリアリティーが、自分自身の現実と重なるところがある。題材は題材だけど、いろいろな人の心に響いてくれるような、普遍的な映画ではないかと思います。

春日井 この作品には、どうしてもサバイバル感がありますね。どの環境でも、自分の過去をうまく乗り越えていく人と、乗り越えられなかった人が出てくる。いろいろな環境があって、その中で、やっていかなきゃいけないところがあって…実生活も、みんなそう。どの世界で、どうやって生きている人にも、何かしら共感してもらえる作品だと思う。

架乃 私は一番、好きなシーンがあって…それは、セクシー女優さんが「子ども、迎えに行くんで帰りま~す」と言うシーン。エロを仕事にしている女性は、仕事として普通に働いている、普通の人間なんだ、というところが、すごく描かれていて。エロを仕事にしている人に対するリスペクトを、メチャクチャ感じて…。この映画を通して、そういう職業にしている人たちも、人間なんだよと知ってもらえたら、うれしい。

座談会の最後に、杏花が主演として、作品への思いを語った。

杏花 やっぱり、この映画は自分にとって生涯、出会うか出会わないか、というくらいの宝物のような役、作品に出会った思いがしているので。代表作だと胸を張って言えるように、これからも女優として頑張りたいなと思うし、この作品も、どんどん広がっていけばという思いがあります。

「グッドバイ、バッドマガジンズ」は、確かに小さな作品かも知れない。それでも出演した俳優…そして劇場に足を運んだ観客の人生を、確実に変えていっている。その輪は、ゆっくりとした歩みで、日本全体に広がりつつある。

◆「グッドバイ、バッドマガジンズ」 オシャレなサブカル雑誌が大好きな詩織(杏花)は念願かなって都内の出版社に就職も、入ったのは卑猥(ひわい)な写真と猥雑(わいざつ)な言葉が飛び交う男性向け成人雑誌の編集部だった。理想とかけ離れた職場にテンションは下がりつつも、女性編集長の澤木(春日井)や女性ライターのハル(架乃)ら、女性がエロを追求する姿に刺激を受け仕事に興味を持ち始める。そんな中、とんでもないミスを見逃した雑誌が出版されたことが発覚したことを境に、激務をともにした同僚が次々と退社。そんな中、オーバーワークで心も体も疲弊しきった詩織は、信頼を寄せていた先輩の向井(ヤマダ)とハルの信じられない事実を知り、ショックを受ける。

成人男性向け雑誌の編集部で実際に働いた経験を持つ宮嶋信光プロデューサー(39)と、映像制作会社で働いていた横山翔一監督(35)の“禁断トーク”は日刊プレミアムでお楽しみ下さい。

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