昨年11月に61歳で亡くなった俳優渡辺徹さんの「お別れの会」が28日、東京・港区のグランドプリンスホテル新高輪で行われた。劇団・文学座の先輩だった俳優中村雅俊(72)が、お別れの言葉で渡辺さんをしのんだ。

中村は「徹は死ぬやつじゃないと思ってました。何度も何度も病気と闘って、そのたびに頑張って戻ってきて、今回だけは本当に残念です。寂しいです。まだまだこれからいろんな素晴らしい出会いがあったり仕事があったりと、61っていうのは…それで逝っちゃうのは本当に若すぎます」と切り出した。

中村にとって、渡辺さんは文学座の後輩にあたる。 「徹とは同じ文学座で、マネジャーも一緒でした。デビューした時のドラマのプロデューサーも、俺がデビューした時のドラマのプロデューサーも一緒でした。『約束』っていう曲が売れた時、俺と同じバンドでライブもツアーもやってました。そんなことがあり、勝手に俺は徹のことを弟みたいに思ってました」

お別れ懇談会の会場には、2枚の色紙が飾られていた。その1枚のうち、黄色くなった色紙のエピソードを語った。

「40年以上前でしょうか。徹がデビューする時に俺のところへ来て、色紙を渡してメッセージをください、って言われたんで、俺はその時の気持ちでこう書きました。『いつまでも あると思うな 人気と仕事』。お前はすんげーうれしそうな顔して『ありがとうございました』って言って帰っていきましたけど、後で聞いたら憤慨していたそうですね。これからデビューしようという若い役者に、それはないだろうというふうに周りに言っていたそうですけど」

昨年9月には、渡辺さんとの共演が、テレビ朝日系「徹子の部屋」(月~金曜午後1時)で実現。渡辺さんがその色紙を持参して収録に参加していた。

「去年の9月に2人で徹子の部屋に出た時に、お前は収録の当日、その色紙を持ってきていて、見たら本当に黄ばんだ色紙でした。でも、それをずっと徹が自分の部屋に飾ってあったってことを聞いて、俺、本当に泣きそうになりました。徹ってそういうやつなんですよね。本当に優しくて、本当に周りのことを気に使って、本当にそういうやつなんです」。

21年に渡辺さんがデビュー40周年を迎えた際にも中村が「いつまでも 続いたじゃない! 人気と仕事! 中村雅俊」と書いて色紙をプレゼントしたことを明かした。

昔話が尽きない。かわいい後輩だった。

「徹との付き合い、いろいろと振り返ってみたんですけど、本当は俺が謝らなきゃいけないようなことばっかりでした。俺ん家の中村家の引っ越しがあった時、俺はいなかったんですけど、徹が手伝いに来てくれてました」

そして「ある日、植木等さんの家に行って、徹の家がすぐ近くだったんで。なんでしょう、酒の勢いなのかどうかは分かりませんけど、つい徹の家の門をたたいてしまって。そのまま大騒ぎして、きっと(午前)2時3時くらいまでいたんじゃないか、と思いますけど。後で聞いたら徹は5時起きだったって聞いて本当に申し訳なかった。申し訳なかったのはそれ以上で、俺一人じゃなくて、俺の知り合いも連れてって。知らない人が徹の家に行って、そんな時間まで騒いでたっていう」。

“家”にまつわるエピソードが続く。

「徹が『家を建てました新築です』って連絡が入って『見に来てください』って言うから行きました。昼間だったんですけど、ピンポンを押して何度も押したんですけど、出てこなくて、なんだよ! と思って。うち近所だったんで、夜に行けばいいやと思って夜に行きました。ピンポンずっと鳴らしたんですけど全然出てこないんですよ。そしたら後ろから徹の声が聞こえて『雅俊さん、そこ違う、俺ん家じゃない』って。真向かいの家でした。ごめんなさい」

気遣いのできる後輩でもあった。のちに中村は文学座から卒業。その後、渡辺さんが当時のマネジャーとの仲を取り持ったという。

「文学座のマネジャーが退職するっていうんで、徹が連絡してくれて送別のゴルフをやろうと。分かったって言ったものの、俺はそのマネジャーとケンカ別れして文学座を辞めたものなんで。だからギクシャクしていたんですけど、徹はその間に入って間を取り持ってくれました。本当に一生懸命に取り持ってくれました。本当に徹って、そういうやつなんですよ。優しくて気遣いができて、チャーミングで。だから徹は本当にできた弟です」

渾身(こんしん)の締めを用意していた。

「徹、俺たちはずっと徹のことを忘れないからね」と語り出し「皆さんご承諾願いますか。徹に忘れないって言うから、俺が『なあ、みんな』って言うから、その時みんなで拳を挙げて、『おおー』ってでかい声で長く言ってくれますか」と声を絞り出すと、会場が呼応した。

「許しが出ました」と言って、「徹、俺たちお前のこと忘れない。絶対忘れないからな。なあ、みんな!」

「おおーーー」と、渡辺さんをしのぶ叫び声が、会場に長くこだました。