女形、立役の両方で活躍する歌舞伎俳優中村鶴松(28)が、音楽劇「くるみ割り人形外伝」(8月5~13日、KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ)で、現代劇に初挑戦する。

故中村勘三郎さんの部屋子として研さんを積み、中村勘九郎、中村七之助の背中を見てきた。これまでの経験や思いを、新たなステップに生かし、飛躍を誓った。【小林千穂】

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歌舞伎では主に女形をつとめるが、若衆(若い男性の役)としても重要な役を演じている。愛らしく生き生きとした存在感や、5歳から舞台に立っている経験値の高さからは、意外にも思える現代劇初挑戦だ。

「中村屋(一門)にいると古典も、新作も多くあるのでそう感じるのかもしれませんね。勘三郎さんも、勘九郎さん、七之助さんもいろんな演劇をやってきているので、学ぶことは多くあると思います。歌舞伎だけをやっていてはだめ。いろんなことに挑戦していきたいと思っています」

作、演出を手がける根本宗子氏には以前にも声をかけてもらったが、平成中村座公演が重なっていたため出演がかなわなかった。

「ようやく何年か越しで根本さんとご一緒できるのがうれしいです。もともと根本さんは勘九郎さんと七之助さんの幼なじみ。いつか2人をメインに歌舞伎を書いてくださると思ってるので、その前に、僕が根本さんの芝居に出られるのが本当にうれしいです」

「くるみ割り人形外伝」は、大人から子供まで演劇を楽しめるキッズ・プログラムの一環として上演される。バレエの名作をベースに、歌、踊り、芝居が詰まったオリジナルの音楽劇。舞台の楽しさを存分に伝える内容になっている。

「僕は歌舞伎役者ですし、歌手、ダンサー、現代劇の俳優がいて、オーディションで選ばれた子供が主役という、ちょっと異種格闘技というか、背景の違う人たちがそろっているんです。和気あいあいとやってます。普段の稽古だと、役の正解にどうアプローチするか、寄り道できないところがあるんですが、今回はどんなアプローチで進めてもいいし、寄り道しても大丈夫なので楽しいですね」

うさぎ役をはじめ複数の役を演じる。歌舞伎役者だと名乗る場面もある。バックグラウンドを存分に出せることもあり、アイデアも積極的に出している。

「歌舞伎役者として呼んでいただいているので、ちょっとアピールできたらなと思ってます。今のところですけど、歌舞伎っぽく七五調でせりふを言おうかなとか、見えをしたりとか。和楽器の演奏もあります」

キッズ・プログラムには多くの子供たちが来場する。初の演劇体験になる子供もいるだろう。プレッシャーより、自分の体験を重ねて自信を見せる。

「僕も初めて舞台を見た時の鳥肌が立つ感覚を覚えています。小さいころの感覚は大人になっても忘れない。この舞台は絶対に楽しいので大丈夫!」

これからの歌舞伎に対する危惧もあるが、前向きに強く語る。

「歌舞伎もいろいろ形が変わり、変革している時代で、歌舞伎役者みんなが不安で危機感を持っています。10年後、20年後に歌舞伎がどういう形で残っているのか分からない状況なので、何でも対応できるよう、新しいものを発信し続けたい。だからこそ現代劇もテレビもどんどんやってみたいです」

◆中村鶴松(なかむら・つるまつ)1995年(平7)3月15日生まれ。00年5月歌舞伎座「源氏物語」に子役として本名で初出演。中村勘三郎さんの部屋子となり、05年5月歌舞伎座「菅原伝授手習鑑 車引」で、中村鶴松を名乗り、部屋子披露。勘三郎さんには「3人目のせがれ」とかわいがられた。女形だけでなく、21年「真景累ケ淵 豊志賀の死」では新吉をつとめるなど、若衆も持ち役にした。昨年は自主公演も開催。9月は「錦秋特別公演」、11月は「平成中村座 小倉城公演」が控える。夏は週5~6回のサウナで乗り切る。

▽演出の根本宗子氏(33) 初めて「野田版 鼠小僧」で鶴松さん(当時はだいきくん)を見た時の衝撃は今でも忘れません。わたしはあまり嫉妬することない性格なのですが、あの時ばかりは大好きな勘三郎さんをあんなに唸らせる自分より年下がいるのかー!! と当時自分は芝居をかじってもいないくせに大嫉妬しました(笑い)。時を経て今一緒に作品を作れているのがとてもうれしく、良い緊張感もあります。子供たちへ演出をしている時も「お話聞いてください」と集中が切れぬよう、そっとサポートしてくれて頼もしいです。わたしは新作歌舞伎を書くのが夢なので、次は歌舞伎でご一緒できたらと夢見ております。

◆くるみ割り人形外伝 少女クララは歌も踊りも大好きだったが、ある出来事がきっかけで内気になり、うさぎの人形にだけ気持ちを打ち明ける日々を送っていた。そして、自分の気持ちを隠してうそをついたせいで、クリスマスに大変なことが起こる。クララはうさぎの人形と冒険に出る-。クララは大橋凜乃と澤田杏菜のダブルキャスト。中村鶴松、一色洋平、チャラン・ポ・ランタンのもも、山之口理香が出演。チャラン-の小春は音楽を担当。

<公演日程>

▼8月3~15日 KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ

▼同19日 愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール

▼同26~27日 長野・まつもと市民芸術館小ホール

▼9月10日 北九州芸術劇場中劇場

○…鶴松は、勘九郎と七之助の反応について「『大丈夫なのか、お前は』と言われました。それでも『楽しんでやってきなさい』と言ってもらいました」と笑った。勘九郎とは、パンクバンドBiSHの解散ライブに一緒に行った時にも話をしたという。「『どんな役なの?』と聞かれて、うさぎの役ですと言ったら笑ってました」。