歌舞伎俳優中村京蔵が、フランス古典悲劇の名作「フェードル」に、歌舞伎をベースにした和様式での上演に挑む。19~20日の東京・国立劇場小劇場での上演を前に、日刊スポーツの取材に応じた。

ギリシャ神話を背景に、ヒロインのフェードルが、義理の息子に恋し破滅に至る物語。学生時代に初めて触れたが「壮大な話で、政争も絡むので、とてもたちうちできる戯曲ではないと、心に鍵を掛けて封印していました」と振り返る。

その企画を温め続け、実際に大きく動いたのは、12年に亡くなった師匠である4代目中村雀右衛門さんの影響が大きい。

82年から雀右衛門さんのもとで研さんを積んできた京蔵は、「師匠は『役者は何でも見聞きしなきゃいけないよ。歌舞伎以外の芝居を見たり、絵を見たり花をめでたり、音楽を聞いたり。歌舞伎以外で幅広く経験したことが肥やしになるんだ』といつも言っていました。私ももともと、歌舞伎以外のお芝居も見ることが大好きだったんです」と振り返る。

一門に入る2年前に初演された蜷川幸雄氏が手掛けた「NINAGAWA・マクベス」を見て、海外古典を和様式で上演するすばらしさを実感していた。15年には「-マクベス」の再演に京蔵が出演した。その経験や、雀右衛門さんが教えてくれたことが「フェードル」上演実現へ後押しした。

3年前「フェードル」の準備が本格的に始まった。共演者の多くは、数多くの舞台を見ている京蔵自身が、この人はと思う人に出演交渉した。歌舞伎以外のお芝居もたくさん見なさい、という師匠の教えがキャスティングにも生きた。チラシを見ながら1人1人について「この方はですね…」などと、出演舞台の話を楽しそうに語ってくれた。

フェードルの夫テゼを演じる池田努も、京蔵が見つけた1人。池田は舘プロ所属で、舞台を中心に活躍を続けている。京蔵は「ちょうどテゼを探していた時に池田さんの舞台を見たんです。芝居センスがあり、スケールも大きくすばらしい。直感でいいな、と思いました」と話す。

コロナ禍もあり、準備開始から3年越しの上演となった。

今「フェードル」を上演する意義を聞くと、「こういう壮大なお芝居って、最近はあまり上演されません。いろんなことがあってつらい世の中ですから、ハッピーなものをやった方がいいのかもしれません。アンハッピーなお話ですが、こんなに大きなスケールのお話もあるということを知ってもらいたいです」と話す。

半世紀近く心に抱いてきた作品がいよいよ上演間近となり、京蔵は「無謀な計画でしたが、やるからには後には引けません。稽古していてもとっても楽しいので、ぜひご覧いただきたいです」と目を輝かせる。かつら、衣装、大道具にもこだわったことで、予算は大幅にオーバーしたそうだが、それも笑いながら話してくれたことも印象的だった。

「中村京蔵 爽涼の會『フェードル』」は、19~20日の2日間3公演。【小林千穂】