2022年(令4)6月に施行されたAV出演被害防止・救済法(AV新法)の見直しを検討するシンポジウムが20日、都内で開かれた。

AV新法は、AVの出演被害を防ぐ法律として議員立法により制定された。女優として出演した女性を守る法律として施行された一方で

<1>AV撮影については、契約の書面交付から1カ月の撮影は禁止

<2>全ての撮影の終了から4カ月は公表を禁止、公表の前には出演者への事前確認の義務

<3>制作公表後1年間、出演者は無条件で契約解除が可能

などの規定が制作の実情に合わない厳しい規制で、制作会社や制作者、女優の間から実情に合わないとの声が出ている。

この日、登壇した経産省出身の制度アナリスト宇佐美典也氏は「もともと法律を書いていた人間なので、こんなばかげた法律が出来るのはおかしい、できるわけがないと思っていた」と主張。契約交付から1カ月の撮影禁止&撮影終了から4カ月は公表を禁止する「1カ月-4カ月ルール」により制作期間が延びたことで、制作本数が減少していると指摘した。その流れで、メーカーが実績のある女優で制作する傾向が強まり、新人、中堅女優の仕事が減っており、アンダーグラウンドな制作現場に女優が流出する負のループになっていると指摘した。

平裕介弁護士は「1カ月-4カ月ルール」について「女優、男優含め職業選択、営業の自由を広く制限しているであろう」と指摘。また、制作公表後1年間、出演者は無条件で契約解除が可能という点についても「クーリングオフに限りなく近い、ただ1年、無条件で解除できるというのは近代法において、クーリングオフでも異例と言われているが、1年はいいのだろうか? と、憲法学者の間でも指摘されていた」と疑問を呈した。

亀石倫子弁護士は、直接、業界に関係がない女性の立場で、ただ1人、パネリストとして前面に立った。「直接的には職業の選択、職業遂行の自由の規制だが、表現の自由において過度の規制をしている。法律が必要と思っている人の中には、こんな表現は、けしからん、子どもに悪影響、この表現は価値がない、良くない、というのが、かいま見える」と表現の自由の問題でもあると指摘。その上で「表現は価値がある人にとってはある、ない人にとってはない、というだけ。私が賛同するのも、自分はAVを愛する人、守りたいという立場ではないが、そういう人にも知って欲しい。女性であってもAVを見たことのない人にも、関係があることだと知って欲しい」とAVを見ない女性にも関わる問題だと強調した。そして「AVは公共の場にダダ漏れしている表現でもなく、見たくない人は見なくてもいい。ゾーニングされており、第三者を侵害してない」と訴えた。

AV新法には「施行後二年以内に施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする」などとした見直し規定がある。今年6月で施行から2年を迎えることを踏まえ、亀石氏は「AVを見たから性犯罪、という因果関係が証明されていない。客観的な因果関係が証明されていないのに表現の自由を侵害することはできないが、AV新法は侵害しているところに問題を感じる。(制作する)会社、現場で働いている女優さんが仕事がなくなって困っている。不合理だというところに目を向け(法律と実情が)乖離(かいり)していて良いのか、というところに目を向けて欲しい」と訴えた。

AV産業の適正化を考える会の発起人でAV監督・作家の二村ヒトシ氏は「我々の業界の世間様と対比しておかしなところ…過去には出演強要の事実があったことなど、悪いことも検分してきている」とAV業界にも浮世離れした部分、問題点があったことを自ら指摘した。その上で「AV新法ができた時、出演者、特に女優さんの立場が良くなるなら大歓迎だった。ただ、去年の暮れくらいから、女優を守るために作られたはずの新法が、見直されずに固まると、女優の労働と表現の自由が、かえって脅かされ、業界の悪い部分まで温存しかねないという危機感を、遅まきながら思うに至った」と、会立ち上げの経緯を語った。

また、亀石氏が指摘した表現の自由の問題について、AV監督の立場から見解を語った。

「僕も作っている立場から、痴漢のAVだらけになったら、まずいと。どうしても、これを見なければいられない人のために作るなら適切にゾーニングをすることは、もっと、もっと考えていかないといけない。不適切な性行為を、フィクションとしてやるということについては、我々の側にも大きな課題がある」

「一方で、それを見たことによって犯罪に走ることを我慢できている人は、捕まらない。我々がいいことをしているとは、あまり思っていません。我々は、エッチなものを作っています。でも、それで救われている人もいる。それが良いことか悪いことか分かりませんが法律で許される範囲でやっている」

二村氏は「AVを誤解して、そんなものはなくなってしまえと思う人方にも、我々の本当の気持ちを伝えていただきたい。我々の仕事の中で最も、弱い立場にある人々を、新法は決して幸せにしない部分がある、何としても改めていただかないといけない」と訴えた。