バンクーバー五輪の開会式が12日(日本時間13日)、五輪史上初となる屋内競技場で行われ、セレモニーに日本人バレエダンサー服部有吉(ゆうきち=29)が出演した。実は国民栄誉賞を受賞した作曲家の故・服部良一氏(享年85)の孫で、おじは作曲家服部克久氏(73)、両親は俳優という「服部一族」の1人。開会式の出演者はシークレットで、この日明らかになった。身長162センチと小柄ながら、カナダの有名バレエ団看板ダンサーにまで上りつめた華麗なダンスを披露した。

 約6万人収容のBCプレースの開会式で、有吉は自身が属するカナダ・アルバータバレエ団メンバーらとともに、同国の歴史や文化などを表現した壮大なアトラクションに登場した。人間が森林に入り、自然と触れ合う中で、感銘をうけていく様子を表現するシーン。中心的存在として、躍動感あふれるダンスを披露した。ほかに同団メンバーら3人の日本人も踊った。

 出演後、取材に応じた有吉は「『芸術家』という前に『1人の人間』として、このような一大イベントに参加できたことが誇らしかった。今回は舞台ではなく、祭り。テンションが上がり、緊張はまったくなかった。今日のベストは尽くせた」と充実感を漂わせた。

 有吉は、国民栄誉賞を受賞した作曲家、故・服部良一氏が祖父という有名な音楽一家の1人。おじに良一氏の長男で作曲家の克久氏を持つ。おいの出演をテレビで見た克久氏は「うれしい。出演をまったく知らなかったので、びっくりした。彼は小柄だが運動神経がすごく、努力をし、素直で頭もいい」と称賛した。

 有吉は一族の中でも異色の経歴だ。都内の小学校を6年で「中退」し、インターナショナルスクールに通った。両親ともに芸能人という家庭の中でミュージカルに興味を持ち、踊りの基礎を学ぶために本格的にダンスに励んだ。

 13歳の時、自らの意思で単身ドイツにダンス留学。そのままハンブルク州立バレエ団に入り、03年には同団で東洋人初のソリスト(準看板ダンサー)になった。06年、アルバータバレエ団に移籍。身長162センチと小柄だが、卓越した運動神経と猛努力で、同団のプリンシパル(トップダンサー)まで上りつめた。

 開会式出演の話がきたのは昨年10月ごろ。直近2週間はバンクーバーに滞在しリハーサルを繰り返した。今後について有吉は「世界中いろいろなところをバレエで回ってみたい。でもどうなるかは、神のみぞ知る。風の吹くままに生きたいですね」とカナダの森林のごとく、自然体で語った。【広部玄】

 [2010年2月14日6時15分

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