昨年の参院選公示前、自民党の河井案里参院議員と夫の河井克行前法相が支部長を務める自民党の2支部に、党本部から1億5000万円の巨額資金が投入されていたことが23日、分かった。案里氏は官邸の全面支援を受け、広島選挙区で自民重鎮・溝手顕正氏と「仁義なき戦い」を展開、溝手氏が手にしたのは1500万円で、案里氏の優遇ぶりが際立つ。河井夫妻は、車上運動員への違法報酬支払いの疑いを抱えるが、巨額自民マネーがその原資に使われた疑いも出てきた。

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関係者への取材によると、自民党本部から河井夫妻側への入金は、昨年4月15日から6月末にかけ、5回に分けて行われた。案里氏が支部長を務める党広島県参議院選挙区第7支部と、克行氏が支部長の党広島県第3選挙区支部の口座に、それぞれ計7500万円ずつ振り込まれたという。

この疑惑を報じた「週刊文春」によると、案里氏側に1500万円と3000万円が2回、克行氏側に4500万円と3000万円が支払われ、その後、克行氏側に30万円を残して案里氏側に資金が移される“工作”も、行われたという。

案里氏は新人で参院広島選挙区(改選2)に出馬したが、新人にこんな巨額資金が、短期間で投入されるのは「聞いた事がない」(党関係者)。当時、自民党は広島で21年ぶりの2議席独占を狙い、国家公安委員長も務めた溝手氏に加え、案里氏を擁立。しかし溝手氏が支部長の支部に党本部が入金したのは、1500万円。これが「相場」というが、案里氏の10分の1。異常なまでの案里氏の優遇ぶりがうかがえる。

自民党幹事長室の担当者は、取材に「政治資金は法令に従って適切に処理している」と説明している。

案里氏は23日、参院本会議後の取材に、1・5億円の受け取りを認めたが「違法性はない」と主張。公認をめぐるゴタゴタで、活動開始が投開票の2カ月半前と出遅れたことを挙げ「短い期間に資金が集中したのではないか」と述べた。一方で、事務所の詳細な運営については、把握していないと述べるにとどめた。

案里氏と克行氏は、その参院選で車上運動員に法定上限の倍の報酬を支払ったとする公選法違反容疑が浮上、広島地検の捜査を受けている。優秀な運動員確保を目的に、巨額自民マネーの一部が違法な報酬の原資になった疑いもあり、野党は追及を強めている。

この日の参院代表質問では、立憲民主党の福山哲郎幹事長が、首相に事実関係をただした。しかし、首相は言及すらしなかった。首相と溝手氏の長年の確執も、背景の1つと指摘されている。

◆安倍首相と溝手氏 07年7月の参院選で自民党は歴史的大敗を喫し、参院第2党に転落した。安倍首相は続投を宣言したが、防災相で内閣の一員だった溝手氏は「首相本人の責任はある」と批判。安倍降ろしが加速し、首相は退陣した。民主党政権時代の12年2月には、当時無役の安倍氏が話し合い解散を主張。溝手氏は「もう過去の人だ。主導権を取ろうと発言したのだろうが、そういう話はない」とこき下ろした。16年には参院議長を巡り、岸田派は当選5回で参院議員会長の溝手氏を推したが、安倍首相が反対。首相との関係が良好な当選3回の伊達忠一参院幹事長(細田派)が選出された。

◆参院選広島選挙区「仁義なき戦い」VTR 当選5回を重ねた溝手氏に加え、自民党本部が2議席独占を目指し、首相や菅義偉官房長官など「安倍官邸」に近い克行氏の妻、案里氏を擁立。しかし「共倒れ」の恐れもあり、溝手氏の当選を目指した自民党広島県連は猛反発。安倍官邸VS党広島県連の身内激突に発展した。結果は野党系無所属の森本真治氏がトップ当選し案里氏が2位、溝手氏は約2万5000票差で落選した。広島は「ポスト安倍」岸田文雄政調会長のお膝元。岸田派重鎮の溝手氏を勝たせられず、岸田氏のメンツも丸つぶれとなった。