将棋の史上最年少5冠、藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖=19)が9日、東京・千駄ケ谷「将棋会館」で行われた第80期順位戦B級1組最終戦で佐々木勇気七段(27)を下し、リーグ成績10勝2敗のトップでA級初昇級を果たした。勝てば昇級枠の2位以内が確定するという大事な一番で、しっかり勝利をもぎ取った。

午前10時から始まった対局は、わずか40分で先手の佐々木が角換わりから積極的に踏み込んだ。藤井は「失敗してしまったかなと思いました。どう対応するか分からず、苦しくしてしまったと思い、指していました」。劣勢を覚悟した。

駒の損得よりもスピード重視の仕掛けに藤井は防戦しつつ、反撃の糸口をつかんで盛り返す。1手間違えばひっくり返りそうな局面の終盤。際どい攻防にも時間を使って冷静に対応する。佐々木にはデビュー1年目の5年前、無傷の29連勝で臨んだ竜王戦決勝トーナメントで初黒星を喫している。

盤の向こう側では白いワイシャツ姿だった佐々木が、脱いでいたスーツを着て居ずまいを正す。投了を告げたのを見た瞬間、トップ昇級が決まった。

「(B級1組では)全体を通して苦しい戦いが多かった。何とか昇級できたのは良かったです」と淡々と語った。

名人への挑戦権を争う来期のA級順位戦は、今年前半から来年3月にかけて行われる。藤井がそこで成績最上位者になれば、来年4~6月に開催予定の名人戦に初めて登場する。時の名人との7番勝負で先に4勝すれば名人となり、谷川浩司九段が1983年(昭58)6月に達成した21歳2カ月の史上最年少名人獲得記録を更新する。

【関連記事】「勝ちかなと思った局面で実は負けだった」藤井聡太竜王に敗れた佐々木勇気七段、周到準備及ばず

大きな一歩を踏み出したが、「今期は課題が多かったと思うので、しっかり振り返って来期挑戦争いに加われるよう頑張りたい」と、抱負は控えめなところにも、藤井らしさが表れている。

今期のA級では29期連続で在籍した羽生善治九段(51)が陥落した。その羽生は93年度のA級昇級1年目で挑戦権を獲得。94年の名人戦で米長邦雄名人を下し、初の名人となった。

来期は入れ替わりで藤井が上がる。将棋界の歴史は確実に変わる。小学生の頃、文集で「名人をこす(原文のまま)」と書いた。夢へ大きく前進した。【赤塚辰浩】