「フジイチャレンジ」を応援したい-。落馬負傷で戦列を離れている藤井勘一郎騎手(38)がポジティブな姿勢でリハビリに励んでいる。4月16日の落馬で第4胸椎脱臼骨折の大けがをし、現在も入院中。今回の「ケイバラプソディー」では、その胸の内を太田尚樹記者がたずねた。

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電話の声は高く明るかった。負傷前と同じだ。落馬から約2カ月が過ぎた今も、藤井騎手は入院してリハビリを続けている。その姿勢は信じられないほどポジティブだ。SNSでも前向きな言葉を発信している。

「まだ4カ月は入院が続きます。泣いても4カ月。楽しんでも4カ月。同じ時間なら好きな方を選択しようと。みんながポジティブにさせてくれるので、前を向かざるをえないんです」

その裏では、やはり下を向いてしまう時もあった。脊髄損傷により、現在も胸から下はまひして感覚がないという。体調も安定せず、日によって立ちくらみや発熱などに苦しめられる。

「最初は現実を受け止めたくない自分もいました。お医者さんの口から(診断を)聞くのが怖くて、心のどこかで『2、3日で戻るよ』と言われるのを期待していたり…。ちょっとしたことで不安に襲われましたし『騎手としての藤井勘一郎が終わってしまう』という思いもありました」

世界中のホースマンが勇気をくれた。デットーリやボウマンら憧れの名手からビデオメッセージが届き、日本の騎手仲間からも差し入れや激励が絶えない。「心から『競馬界に入ってよかった』と思いました」と感謝する。そして、何よりの支えが愛する家族だ。

「妻と3人の子供は、状況が変化して僕以上に大変だと思います。そんな中で妻が、子供たちが笑顔で学校へ行く動画を送ってくれたりして。彼女や彼らのためにも強く生きないと」

だから明るくリハビリに励む。先日は院内で車いすを計10キロもこいだとか。彼がキャッチフレーズとしているのが「フジイチャレンジ」。何事にも挑戦し続ける姿勢には、むしろこちらが元気をもらうぐらいだ。

「何十年もかかってようやくJRAの騎手になれて、その目標を達成した自信もある。今回は競馬とは違うけど、自分の体を戻すのが目標。目の前の困難に立ち向かっていかないと。自分へのチャレンジです」【太田尚樹】

◆藤井勘一郎(ふじい・かんいちろう)1983年(昭58)12月31日、奈良県御所市生まれ。01年にオーストラリアで見習騎手としてデビュー。07年にはシンガポールの短期免許を取得して同年3月のG3チェアマンズTで重賞初勝利。19年にJRA騎手免許を取得。JRA通算1182戦42勝(重賞1勝)。166・7センチ、51・7キロ。

(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー ~楽しい競馬~」)