あのベテラン騎手の言葉が、礎になっている-。今回の「ケイバラプソディー~楽しい競馬~」は、関東所属ながら栗東に滞在している秋山稔樹(としき)騎手(21=美浦・蛯名利)を、大阪のことは(下村琴葉)記者が取材した。5月30日から約3カ月間、栗東で得たいものとは。そして、論理的な彼を支える競馬観に迫った。
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心と足がしびれた。調教終わりに厩舎の端っこに腰かけながら、秋山稔騎手と2時間話し込んだ。「この世界にいるからにはトップになりたいですから」。そう見据える将来のために、今はまだ研さんの時だ。
上半期の競馬が終わったが、今年はわずか2勝。この現状打破のため関西、栗東に乗り込んだ。去年から減量騎手が増えたこともあり、騎乗数が激減。「ローカルに行った時にも、営業がしやすい関係をこっちでつくって帰れたらいいなという目的で来ました」。
そのために積極的に行動する。栗東トレセンには現在、91の厩舎があるが、その全て、1つ1つの厩舎にあいさつをして回った。そのかいか、さまざまな厩舎の馬に調教をつける姿をスタンドからよく見かける。
とにかく馬に乗ることを大切にしている。この考えは、岩田康騎手から教えてもらった。ベテランとのファーストコンタクトはお風呂場だったというが、1年目の夏から親身に指導をしてくれた。時には励ましのLINEも。今でも見返すというそのスクリーンショットをちらっと見せてくれたが、部外者の私でもグッとくるような熱い文章がつづられていた。
「僕自身、メンタル的に弱くて。一喜一憂するところもある。でも『勝ちたいのはみんな同じ。そこを自分の中で意識しすぎるよりも、馬から1つでも多くのことを教えてもらえ』って岩田さんに言われて。悩んだり、なんか考えている暇があるなら、馬に乗っておけって」
それからは北海道でも多く調教に乗るようになり、もらった言葉通り、多くのことを馬から教えてもらった。その北海道での調教頭数が減ったことも、今回の栗東滞在につながる。
目の前の勝利ではなく、もっとその先のキャリアのために-。柔らかな笑顔の中には、熱い思いが燃える。栗東滞在生活はあと2カ月の予定。美浦・蛯名利厩舎の緑ジャージー姿が、今日も栗東トレセンを奔走する。
◆秋山稔樹(あきやま・としき)2001年(平13)9月12日、千葉県生まれ。美浦・蛯名利弘厩舎所属で20年3月1日中山1R(ラブエスポー)でデビュー(5着)。初勝利は同3月15日中山1R(ラブエスポー)。JRA通算1700戦81勝(26日現在)。155センチ、45キロ。血液型はA。好きなアニメは「名探偵コナン」。
(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー ~楽しい競馬~」)