香港の英雄ロマンチックウォリアーの性別は牡馬でも牝馬でもない、去勢されたせん馬です。

JRA所属馬でも18年フェブラリーSのノンコノユメや、古くは02年マイルCSのトウカイポイント、94年ジャパンCのマーベラスクラウンなどがせん馬として平地G1を制しています。先週のG2マイラーズCも、7歳せん馬ロングランが勝ちました。今回の「ケイバラプソディー ~楽しい競馬~」は、明神理浩記者が栗東トレセン競走馬診療所で取材した「最近のせん馬事情」です。

2024年安田記念を制したロマンチックウォリアー
2024年安田記念を制したロマンチックウォリアー

まずは基本的なことのおさらいから。牡馬は去勢されたらどういった変化が起こるのでしょうか。「男性ホルモンのテストステロンの分泌が極端に減って牝馬のレベルになります(ゼロになることはない)。テストステロンが減ることで扱いやすくなります」とは栗東トレーニングセンター競走馬診療所の川崎和巳所長。テストステロンというのが攻撃性であったり、強い馬っけのもと。これは馬も人も同じで、思いあたる節のある方も多いのでは。

激しい気性や牝馬が気になって仕方ないといったところがなくなり、調教、レースに集中できるようになるというわけです。

トレセン診療所での去勢手術は「年間30頭ほど。最近では引退して乗馬にするために去勢する馬が別に30頭いて年間60頭ですね。去勢する馬はちょっと増えてきた感じがします」と所長。調べてみると00年の全出走馬に対するせん馬の比率は、のべで2・72%。近年で最も多かった21年で5・57%。実に倍以上になっています。

去勢手術は局所麻酔をして立ったままで行うのと、全身麻酔をして寝かせた状態で行う2つの方法があります。

診療所ではすべて全身麻酔。「馬に怖い思いをさせないし、記憶も残りません。(予期せぬ)事故も起こらないです」。術後の経過もいいようで「手術して翌日には運動をできます。傷口がふさがるまでの2~3週間してから乗り出して、2~3カ月で復帰できます」。

2018年フェブラリーSを制したノンコノユメ
2018年フェブラリーSを制したノンコノユメ

ちょ、ちょっと待った。自分が若い頃は全身麻酔をしたらその影響が抜けるのに半年から1年はかかると聞いたことがありますが…。

川崎所長は「30年前ぐらいは麻酔の薬自体があまり良くなくて、馬に負担がかかっていました。今は麻酔の薬がどんどん良くなっているんです」と笑みを浮かべながら説明してくれました。

なるほど。それなら去勢して即、結果を出すことも可能になるわけです。

ある調教師は「世界的に見ても日本はせん馬が少ない」と言います。ロマンチックウォリアーの所属する香港はほとんどがせん馬。米国では1歳のセリで去勢された馬が出てきます。

去勢する=繁殖能力がなくなるわけですが、現実をみれば繁殖に上がれる牡馬はほんのひと握り。せん馬になって能力を発揮できる馬が増え、競馬全体がさらに盛り上がる…。決して悪いことではないと思います。

(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー~楽しい競馬~」)