ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、私は調教師時代に芝1200メートルのG1へ出走したことがありません。重賞も4回だけで、すべて2桁着順だったようです。偏った調教師だったなと思います(笑い)。

私は馬をつくる上で、調教から我慢させて、脚をためてから加速させることを教えるようにしていました。それは馬に乗る人を育てることにもつながります。ただ、1200メートルだと最初からスピードを全開にする競馬が多く、抑える必要はほとんどありません。折り合いを欠く馬などは使いたくなるものですが、馬づくりや人づくりの中で“逃げ道”になるのが嫌で、あまり使いませんでした。いったん距離を短くすると、再び延ばすのは難しいというのもあります。とはいえ、オーナーサイドからの打診があれば、無理に断ることはありませんでした。

今後を見据えて使うことはありました。たとえば芝のマイル戦で引っ掛かって最後でバタバタになるような馬は、ダートの1200メートルで砂をかぶる位置につけて我慢させるようにしました。あえてダートなのは、芝の1200メートルだとついて行けずに終わってしまうからというのも理由です。

個人的には2000メートル前後のレースが好きでした。世界中にレベルの高いG1がある距離で、繁殖入り後も1600~2000メートルで実績を残した馬は価値が高いとみられます。そういう舞台で戦いたいという気持ちがありました。

私としては最後まで短距離馬のつくり方が分かりませんでした。助手時代に所属した松田国英厩舎でも中長距離での活躍馬が多く、短距離馬に接する機会が少なかったのもあります。

そんな中で、ロードカナロアなど数々のスプリンターを育ててこられた安田隆行先生は「すごいな」と思っていて、厩舎のスタッフに「どうやってつくってるの?」と聞いたこともあります。ただ、その時はすでに私の引退間際だったので、安田厩舎の調教パターンを試すことなく終わってしまいました。私のちょっとした心残りでもあります。