ニシノフラワーが圧倒的な強さを見せつけた。好スタートから先行グループにつけた同馬は、深い芝、直線の坂をものともせず、2着のアドラーブルに3馬身半差をつけ、ニュー阪神コースの初代女王となった。河内騎手は桜花賞4勝目となり、自己の持つ最多記録を更新した。またビッグレース唯一未制覇の桜花賞にディスコホールで臨んだ岡部騎手は9着と敗れ、悲願達成はならなかった。

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ニシノフラワー&河内の最強コンビに敵はいなかった。ゴール前200メートルで逃げるウィーンコンサートをかわすと、後は独壇場だ。ニシノをマークしたアドラーブル、ダイイチランナー、ダンツセントーとの差は広がるばかり。スタンドの絶叫がピークに達する中ニシノフラワーはさっそうとゴールを駆け抜けた。

勝負は2コーナーで決まった。レース前、河内は「わしさえミスしなければ勝てる」と豪語していた。その河内が全精力を集中させたのは、各馬が内へ切れ込んでくる2コーナーだ。内に包まれ、モマれる競馬になった時が、河内の考えうる唯一の心配だった。大レースはたったひとつのミスが致命傷となる。だが、大レースの勝ち方を知り尽くした河内は、憎いほど冷静だった。スッと進路を外に持ちだし、何のロスもなく愛馬を流れに乗せたのだ。「あれでニシノフラワーに勝たれると思った」とアドラーブル(2着)の村本騎手。

こうなるとエンジンの性能が違うのだから負けるはずはない。「最後は脚色が鈍り、ゴールまでヒヤヒヤやった」と照れる河内だが、腹の中ではこの2コーナーで勝利を確信したに違いない。「河内のとっつぁんはほんまスキがないわ」と、田原があきれるほど完ぺきなレース内容。「マイナス12キロ?太め残りよりましやがな。とにかく競馬センスが抜群やからね。これまでに桜花賞を勝った3頭とタイプは違うが、この馬もほんま強いわ」と、前人未到の桜花賞4勝を飾った河内は顔をくしゃくしゃにして笑った。

さあ、次は5月24日のオークス(東京、芝2400メートル)。もはや敵なしの最強牝馬に死角はない。「カーッと行く馬やないし距離は心配ないやろ。まあオークスも楽しみやね」。最強馬が完ぺきな競馬で勝つ。一見退屈に思えるが、「カワチ~、カワチ~」とターフ版河内音頭を合唱した6万9130人は、満足そうな面持ちで競馬場を後にした。【山田準】

◆ニシノフラワー ▽父 マジェスティックライト▽母 デュプリシト(ダンチヒ)▽牝・4歳▽馬主 西山正行氏▽調教師 松田正弘師(栗東)▽生産者 西山牧場(北海道・鵡川町)▽戦績 6戦5勝▽主な勝ちくら 阪神3歳牝馬S(G1)デイリー杯3歳S(G2)札幌3歳S(G3)いずれも91年▽総収得賞金2億4314万6600円

(1992年4月13日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時