ダートグレード(DG)界の絶対的王者の素顔とは-。学習院大在学中に「日本中世史」を学んだルーキー下村琴葉(ことは)記者が、歴代スターホースの逸話を探る連載「名馬秘話ヒストリア」第8話は、砂重賞19勝のスマートファルコン。皐月賞後から同馬を管理した小崎憲調教師(51)が当時を振り返る。

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逃げて、逃げてDG9連勝。生涯成績34戦23勝(そのうち地方25戦19勝、海外1戦0勝)と、スマートファルコンはダートの舞台で圧倒的存在感を放った。デビュー後ダートで3戦、芝で4戦した後に転厩して小崎厩舎の一員となった。

レースでは卓越したスピードで他馬をねじ伏せるファルコンだったが、性格はものすごく怖がり。古馬になっても普段通っているところに、いつもはない物があると興奮することがあった。また、トレセンではおとなしいリードホースに誘導され、2頭で調教を行っていたという。

10年JBCクラシックを契機に逃げ策でDG9連勝を飾った。この戦法がハマったのにはその怖がりな性格も影響していたようだ。「他馬が怖いから逃げる。後ろから突いてくる。それも怖いからさらに逃げる、みたいな感じ(笑い)」と小崎師は振り返る。

それ以前から、何度も逃げの競馬をして成績は残していたが、逃げ一辺倒になると展開に左右されることも多く、出遅れの影響を受けやすいために馬群の中で競馬をしようという考えもあった。「でも、能力が高いからそのまま押し切っちゃうんだよね」。性格と能力の高さがかみ合った結果、彼の伝説が誕生したのかもしれない。

現役最後のドバイワールドCでは、万全すぎる状態が故に、ゲートに突っ込みかけて出遅れ。レース中も挟まれたり、つまずいたりで自分の競馬ができず10着に終わった。その悔しさはいまだに師の胸に残る。

デビュー10戦目、3歳10月の白山大賞典(金沢)以降は、1度も中央のレースに出走することなく、全国の地方競馬場を盛り上げたスマートファルコン。現在は種牡馬として夢をつないでいる。

◆スマートファルコン 2005年4月4日、北海道静内町(現新ひだか町)岡田スタツド生まれ。父ゴールドアリュール、母ケイショウハーブ(母の父ミシシッピアン)。馬主は大川徹。栗東・小崎憲厩舎所属。通算成績34戦23勝(うち地方25戦19勝、海外1戦0勝)。G1、JpnI勝ちは10、11年東京大賞典、10、11年JBCクラシック、11年帝王賞、12年川崎記念。総賞金は9億9073万6000円(うち地方9億3025万円)

◆下村琴葉(しもむら・ことは)2000年(平12)、東京都生まれ。学習院大卒。学生時代は日本中世史ゼミに所属し「吾妻鏡」を講読。趣味は野球観戦。“ウマ娘”がきっかけで競馬に興味を持った。今年4月日刊スポーツ入社、5月にレース部に配属。初予想のダービーを◎ドウデュースで大的中。馬のメンコを見るのが好き。