センバツでのサイン盗み騒動で、星稜(石川)の林和成監督(43)は、相手の習志野(千葉)小林徹監督(56)に疑念を伝えた際「星稜さんもやっているでしょ」と言われたと主張した。

林監督は報道陣に「やっているわけがない。石川県は県として根絶したから」と言い切った。発言の背景を探ってみた。

星稜といえば、まず92年夏の明徳義塾(高知)戦、松井秀喜の5連続敬遠が思い起こされる。観客席から投げ入れられたメガホンを星稜の選手たちが回収に走った。松井は「相手の作戦なので自分は何も言えない」と涙をこらえた。その姿に賛辞が贈られた。

石川県勢は甲子園優勝がなく、2年生の松井を擁した91年は4強。優勝の機運が高まる中の、翌92年の明徳義塾戦だった。ただし、石川県高野連の佐々木渉理事長(45)は敬遠騒動とフェアプレーの意識の関連性は感じていないという。「石川県にある、当たり前の伝統です」と明言した。

同理事長は教員になった99年から石川の高校野球に関わり始めた。「当時から、先生方が言い合っていた。『チームの日本一も大事だけど、石川はマナーの日本一になろう』と」。

マナーアップのシステムを確立している。各大会が終わるたび、加盟50校から微細なことでも事例を挙げてもらう。ファクスとメールで、通例30~40校から送られてくる。それを、次の大会前の監督会議や年4回開く責任者会議で、口頭および文書でも通達する。

「一部がやったことでも、県全体として、ダメなものはダメ。文章化することで、より徹底されると考えています」。場合によっては責任者を高野連に呼ぶ。サイン盗み疑惑のあった学校に注意を与えたこともある。4月に入部してくる生徒には、日本高野連が作る重点指導を必ず説明するよう、4月の理事会で各校に周知する。今回は、サイン盗み騒動の直後だった。

「くさいものにフタをすることはない。『今回、甲子園で話題になったけど、石川は疑われるような行為や、注意をされないようにしましょう』とそのまま伝えました。ただ県の代表校で甲子園に出たから応援しましょうね、ではなく、甲子園は我々の勉強の場だと思っています」

実際に、石川県内でサイン盗み行為はほとんど見られなくなったという。星稜の林監督が甲子園から戻ってから、県高野連や先輩監督らが林監督と連絡を取ったり直接話を聞いたりした。「日本高野連は父、我々は母。そういう形でよくしていきたいと思っています」と同理事長。都道府県単位の取り組みは、見逃せない要素だ。【柏原誠】