<イースタンリーグ:DeNA5-8日本ハム>◇18日◇横須賀

日本ハム、ロッテ、ダイエーで現役生活を21年間、ソフトバンク、阪神、中日などで2軍バッテリーコーチを21年間(うち1年間は編成担当)、計42年間のプロ野球人生を送ってきた田村藤夫氏(61)が、日本ハムの大卒2年目・梅林優貴捕手(23=広島文化学園大)のプレーと配球の中に、捕手としての適性と、陥りがちな死角を見た。

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ほお~と思ったのは1点をリードされた3回裏の守備だった。乙坂の適時二塁打と森への四球で1点を許しなおも1死一、二塁。投手は3年目の柿木。打者細川の初球にDeNAベンチは重盗を仕掛けてきた。二走乙坂のスタートはまずまず、森はやや遅れたかに見えた。梅林は二塁に送球。ショートバウンドしたが一走森を刺した。

私は梅林の頭には重盗があったのではないかと感じた。通常の重盗では、捕手は三塁に投げることが多い。ベースへの距離が短いからだ。ただ、重盗のポイントとして一走のスタートはちょっと遅れる傾向がある。それは二走の状況を確認してスタートするためで、梅林はそのことが頭に入っていたのではないか。準備していたからセカンドで刺せたと感じる動きだった。

重盗では意表を突かれた捕手が慌てて三塁に送球する場面や、二走のスタートが良く三塁への送球をあきらめるシーンを目にする。しかし、この試合の梅林のように迷わず二塁で刺せるのは、あらかじめ重盗を想定し、二走のスタートと一走のスタートを視野に入れて判断したことが大きかった。捕手が、相手ベンチが仕掛けてきそうな策を考えているかどうか、その大切さがよく分かる。

一転して、捕手がはまりやすい内角の使い方が顕著に見えた。日本ハム3点リードの5回裏は1死満塁。投手は右腕長谷川。打者益子(右打者)のカウントは0-2。追い込んだ中で梅林の要求は内角ストレートに益子はファウル。続くボールも内角ストレートを要求。ボールはど真ん中への失投も見逃し三振。

2死満塁。打者田部(右打者)。カウント3-2のフルカウントから、内角ストレートを要求。ボールは真ん中に。打球は投手の頭上を越えセカンドが追いつくのがやっとの2点タイムリー。1点差に迫られた。

満塁で内角を要求される投手心理を梅林は理解していたのか。満塁で内角を求められても投手はなかなか厳しく攻められない。厳しくいって仮に死球なら押し出し。1軍主力クラスの投手は捕手の意図通りのピッチングができるだろう。

打者益子のケース、捕手なら内角へのボール球で厳しく攻め、その後の外角で打ち取ろうと考えたくなるのも分かる。だが、それは捕手中心の考え方であって、そこに投手心理が抜けていては一方的なリードになってしまう。

捕手であれば、こうした状況ではまず相手バッター対策よりも、自分の投手を優先させる、これが鉄則だ。打者益子の場面で、内角を要求してファウル。再び内角を要求してど真ん中に入ったのは、厳しく投げきれない投手心理が働いたゆえの失投であり、それを益子が見逃したのはたまたまだったと考えるのが一般的だ。

長谷川の心理からすれば、内角へ投げきれない、もしくは当てたくないと考えているところで、益子は見逃し三振に切り抜けたが、続く田部にも再び勝負球で内角ストレートを要求される。同じように当てたくないがゆえの失投で真ん中への絶好球でタイムリー、という背景を梅林は考えなければならない。

配球を語る上で内角の使い方はいつもテーマになる。状況に応じた使い方をしなければならない難しいテーマで、場面に応じて微妙に変わってくる。捕手はこうした失敗の中でひとつずつ身をもって学んでいくしかない。この失投の中から、捕手梅林が学習することだ。

そのためには常日ごろから投手と話をしなければ。「投手と話せ」と、私はコーチ時代に若手捕手に言ってきた。投手と捕手を呼び、話をさせることもあった。そういう状況を作ることで、投手はマウンドで感じることを捕手に言えるようになる。捕手は、投手とはそういう思いで投げていると理解するようになる。

捕手が自分本位なリードをしても、投げる側にその意図が正確に伝わらなければうまくいかない。まず、捕手が投手の感じているものを察することから、バッテリーの共同作業はスタートする。こういう時、この投手はこう考えるものだ、という情報を頭に入れた上ではじめて打者対策が始まる。

重盗を頭に入れていた考える力と、満塁で投手が感じる内角球への心理的負担に思いが至らない未熟さが、この試合にはよく出ていた。未熟と表現したが、誰しも最初は学ぶところからスタートする。捕手の脳は休まることはない。試合がはじまれば相手ベンチの思考を推測し、試合が終われば場面、場面での投手の心理に思いをはせる。終わりのない長い道のりだ。(日刊スポーツ評論家)