世界野球「プレミア12」で必死にプレーする“猛虎戦士”が1人だけいる。この日、侍ジャパンと対戦したメキシコ代表入りしているエフレン・ナバーロだ。

昨季、鳴り物入りで入団したウィリン・ロサリオが不振とあってシーズン途中に加入してきた。右の大砲と期待されたロサリオの代わりに来たはずだったが、なぜか左打ちの巧打者タイプ。「なんで?」と正直、首をかしげたけれど、それなりの個性を見せ、2年目の契約を勝ち取った。

驚かされたのは今春の沖縄・宜野座キャンプだった。昨季と見違えるようにムキムキになっていた。「ビルドアップしただろう? 打球を飛ばさないとダメだからね!」。大砲としての期待に応えようとしての変身ぶりだった。

しかしシーズンが始まると逆に持ち前の器用さが影を潜める皮肉な結果になった。結局、途中から2軍暮らしでシーズンを終え、9月末に帰国。今月中にも阪神から去ることが正式に決まる。

「いいヤツだったんですけどね」。ナバーロについてそう振り返り、メキシコ代表としての戦いを見守っているのが阪神で通訳を務める橘佳祐だ。スペイン語を駆使し、外国人選手のケアをしている。そんな中でナバーロの人柄にふれた。

「確かにチャンスはもっとほしいよな。でも何より自分が成績を出せなかったのがよくないんだ。もらったチャンスをモノにできなかったのがいけない」

2軍にいたナバーロは首脳陣に不満を言うどころか常にそう話していたという。ナバーロが33歳、橘が31歳と年齢も近く、いろいろと話したようだ。帰国する際も「阪神には感謝している。こんなに応援してもらえる球場でプレーしたこともないしね」とキャリアを誇っていたという。そして今、メキシコの代表選手として再び日本に戻り、国際試合の真剣勝負を戦う。

「ファームで試合に出ていたということは、それだけ若手の打席機会を奪っていたことにもなるわけです。ある意味ではこの大会のために鍛えていたような感じですよね。だからこのぐらいはやってもらわないと…なんて思います」。ナバーロの活躍を見ながら橘は冗談交じりにそう言う。

ナバーロの願いは日本球団との契約だ。それが実現するかどうかはともかく、来季へ向けての戦いは秋季キャンプだけではないと思ってしまう。(敬称略)