面白かった。雨中の熱戦。勝ち越し3ランを放った寡黙な大山悠輔が見せたガッツポーズ。クラッチヒッター梅野隆太郎が同点打を放ったときの表情もよかった。負けないガンケルの粘投もいい。ヤクルト山田哲人が放った意地の1発にもうなずかされた。

印象的だったのはヤクルト青木宣親の険しい表情だった。8回、まさかの落球から阪神に逆転を許した。ベテランとしてこんなに悔しいことはないだろう。目の前で起こるドラマに、ファンは自分の人生を重ね合わせる。これがプロ野球。そんな試合だった。

思い出していたのはオリックス担当記者だった20年以上前のこと。監督だった仰木彬の記憶だ。90年代を代表する名将を囲んだ、ある食事の席。そんな場面で仰木はあまり野球の話をしなかった。だが、どういう風向きだったのか、そのときは自分から“クイズ”を出してきた。

「前半戦はBクラスやったけど球宴明けから頑張って、最終的に3位に入ったチーム。一方、球宴ぐらいまで首位を走っていたけれど途中で失速してBクラスになったチーム。この2つ、どっちが正解や?」

仰木が考える“正解”は後者だ。「首位を走っていたらファンはうれしい。今年はやってくれると思える。それで優勝できれば最高やけど、できなくてもシーズン中は楽しめたやろ」。そんな話だった。

当時はクライマックスシリーズはなかったので優勝できるかどうかが唯一の焦点。現在とは違うのでそこは微妙なところかもしれないが、いかにもファン目線でプロ野球を考える仰木らしい考えだと思った。

時が流れてもリーグが違ってもファンがひいき球団に求めるものは根本的には変わらないと思う。楽しませてくれ。スカッとさせろ。日常とは違う“別世界”で憂さを晴らしてくれる一瞬を期待しているのだ。

その意味で今季の阪神はかなり頑張っている。ヒヤヒヤ、ドキドキ、あるいはイライラしながらも虎党は、日々、楽しいはずだ。秋の大願成就への期待は当然、あるとしても、いま、この瞬間を楽しめるのだ。

舞台もこれ以上ないほど整えられている。名将・原辰徳率いる巨人との一騎打ち。こんな状況は、なかなか望めない。さあ、前半戦最大の見せ場、巨人との首位攻防戦3連戦だ。ここでもしっかりと楽しませてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ヤクルト対阪神 8回表阪神2死一、三塁、右越えに勝ち越しの3点本塁打を放ち、ガッツポーズを見せる大山(撮影・菅敏)
ヤクルト対阪神 8回表阪神2死一、三塁、右越えに勝ち越しの3点本塁打を放ち、ガッツポーズを見せる大山(撮影・菅敏)