「イチにカケル!」て…。今年の阪神スローガンを初めて聞いたとき、正直、ピンとこなかった。というか、いろいろと間違ったことを妄想した。

オリックスを取材していた25年前、イチローのことを「イチ」と呼んでいたし「カケ」と言えば、なんといっても阪神のレジェンド掛布雅之だろう。

偉大な左打者2人に何か関係あるのか、と思ったら全然、違った。「最終的に優勝して1番になることなど、あらゆる『イチ』にこだわり、その思いを『カケル』」。昨季、12球団最多77勝を挙げながら2位に終わったことを受け、1番を意識した結果の言葉だ。

2回裏紅組無死、佐藤輝は左越え本塁打を放ちベンチ前で隣にテレビカメラがあると思ったがなかったのでグラウンドへポーズを決める(撮影・加藤哉)
2回裏紅組無死、佐藤輝は左越え本塁打を放ちベンチ前で隣にテレビカメラがあると思ったがなかったのでグラウンドへポーズを決める(撮影・加藤哉)

それでも申し訳ないけれど分かったような分からないような感じは続く。まあプロ野球のスローガンはそういうものなのだけど、その意味でやっぱり一番にうならせたのは阪神期待の左打者・佐藤輝明だった。

12球団でもっとも早い紅白戦でとにかく目立った。本塁打などの活躍は虎番記者の記事で読んでいただくとして指揮官・矢野燿大のコメントに同感した。

「目立つところで打てるというかね。明日もテルが(スポーツ紙の)1面になるんやろうけど。記事にしやすいところで打てるというのは、誰もができることじゃない」

北京冬季五輪も始まっているので1面かどうかは分からないけれど、いかにも昨季の前半戦、球界に衝撃を与えた男の面目躍如だ。同時に思うのが打たれた藤浪晋太郎である。この男もやっぱり目立つ。いろいろな選手がいるが、いまの阪神で、華があって堂々と1面を張る“主語力”があるのはこの2人だと思う。

2回裏紅組無死、藤浪(手前)は佐藤輝に左越え本塁打を浴びる(撮影・加藤哉)
2回裏紅組無死、藤浪(手前)は佐藤輝に左越え本塁打を浴びる(撮影・加藤哉)

藤浪は一昨年、プロ野球選手として初めて新型コロナウイルスに感染し、思わぬところで“1番”を取ってしまった。当時「よりによって藤浪かいな」と仰天したものだが、今にして思えば彼でなければあそこまでのニュースになっていたかどうか。第6波が来ている現状を見れば、かなり気の毒だった気もする。

期待されながらも苦しい日々が続く藤浪。この日の「12球団実戦初被弾」で目が覚めて、今季こそ、これも何度も言ったけれど、今季こそ完全復活して、佐藤輝との「関西出身ドラ1コンビ」のお立ち台の実現、そしてそろって優勝の原動力になってほしい。また能天気なことを…と言われようと、そんな願いを持つのもキャンプなのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)