前川右京の誕生日を見て、ちょっとだけ驚いた。03年5月18日生まれの18歳。03年生まれ-。闘将・星野仙一の下で18年ぶり歓喜の優勝に輝いたあのシーズン。その真っただ中に生まれているということだ。本年度に19歳になる高卒ルーキーはみんなそうだけど、そんなに時間がたったのかとあらためて感慨深い。

前川の生まれたその日。星野阪神は、現在同様に原辰徳率いる巨人と甲子園で戦っていた。先発は下柳剛、上原浩治。金本知憲が3号、清原和博は4、5号を放つ接戦は同点の7回裏、1死三塁で今岡誠(当時)が上原から決勝二塁打を放ち、阪神が勝っている。

資料によれば決勝打が生まれた7回に球場南側で火災が発生した模様。白煙が甲子園にも流れ込み、今岡の打席の途中でいったん中断。その後に決勝打が出た格好だ。記者席で見ていて、なんとなくそんなことがあったのは覚えているが、いずれにせよ虎党が喜ぶ劇的な試合だった。

そんなことを懐かしく思い出しながら前川の打席を見た。2安打はいずれも変化球にしぶとくついていって拾ったような感じだ。これだけで言うのも早計かもしれないがファームで主軸を打つだけのセンスは感じる。ちょっと聞いてみよう-と思って電話をかけた。

小坂将商。名門・智弁学園の野球部監督だ。この日は前川はもちろん同校OBで巨人の主砲・岡本和真もスタメン。気になっているだろうと思った。「うれしいですね。阪神、巨人で出てるんですから」。独特の早口で話す小坂は前川の人間性を教えてくれた。

「きつくしかっても、なついてくるというかね。一見いかつく感じるかもしれんけどかわいいヤツですよ。ウエートトレが好きでよくやっていました。どっちにしても俊足とか守備とかで出ていけるタイプではないし。棒(バット)ですよ。棒で生きていかんと」

そんな話だった。ウエートトレーニングが好き。あえて言えば金本タイプか。もっとも金本は若い頃は走力もあり、トリプルスリーも達成している。それ以前にあれほどの打者になるのは並大抵の努力では追いつかない。それでもなんだか期待したくなる存在だ。

虎番記者によれば前川が使用しているバットは「金本モデル」。前川が金本のようになって佐藤輝明もさらに成長している日がくれば-。そんな妄想も楽しい開幕前だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対巨人 9回裏阪神2死、中前打を放つ前川(撮影・前田充)
阪神対巨人 9回裏阪神2死、中前打を放つ前川(撮影・前田充)