「天理のバレンティン」が、本家も顔負けの2発を放った。天理(奈良)神野太樹外野手(3年)が2打席連続のアーチを放ち、元近鉄、阪神の中村良二監督(49)に甲子園初勝利を贈った。

 したたかに狙っていた。「天理のバレンティン」こと4番神野が、史上初となる大会初打席からの2打席連続本塁打を放った。普段はライナー性の打球でチャンスメークを心掛けるが、このときは違った。「みんなにホームランを狙えと言われていた。打った瞬間、入ったと思った」。2回だ。本家ばりに力強く振り切り、バックスクリーン右へのソロで先制に成功した。

 さらに4回。2発目はなんと“予告ホームラン”だった。1発目を放ちベンチに戻ったとき、大相撲の元横綱、輪島大士氏(69)の長男で親友の輪島大地投手(3年)に言った。「欲を出さないで、場外ホームラン狙ってくるわ!」。その言葉通り高校通算14本目を左翼席にたたき込んだ。

 愛称の「天理のバレンティン」は、同学年で練習補助員を務める高橋良が「体もデカイし、色は黒くて打ち方も似てた。(顔に)ほくろもあったから」と名付けたもの。本人は奈良大会中に「名前先行」をいやがっていたが、もう「名前負け」とは言わせない。

 神野は「うぬぼれず、コンパクトにやっていきたい。ホームランのことは忘れて切り替えて」と次戦を見据えた。それは勝負の怖さを知っているからだ。1年生で出場した夏の甲子園。「飛び込めば捕れそうだったライナーに引いてしまった」。右翼守備で消極的になり、敗れた先輩たちの涙を見た。この日宿舎を出る前、その失敗を記した“野球ノート”を読み込んだ。「自分のせいで負けた」。最終学年こそは自分の力でチームを勝たせたかった。