今年のヤクルトは、ひと味違う。1-1の8回無死一、二塁。代打上田が、定石通りにバントの構えをとった。犠打を阻止すべく、阪神守備陣が動く。一塁手と三塁手が本塁方向にダッシュし、二塁手と遊撃手はそれぞれ一塁と三塁のカバーに走りだした。

 そこで生じた隙をついた。上田が初球をバスター。がら空きの二塁手の定位置に飛んだ打球が外野へ転がった。二塁走者が生還。上田は「絶対に三塁で刺すシフトだし、何とか転がそうと思った」と胸を張った。

 新生ヤクルトが掲げる指針を実践した。「安打を打てなくても点を取ろう」。春季キャンプから、首脳陣は犠打やバスター、走塁など小技の重要性を浸透させた。実戦では内野ゴロで三塁走者をかえせば、適時打のような賛辞を贈った。

 成果は先制点にもつながった。3回に藤井の四球後、中村が初球にバスターエンドラン。逆をつかれた遊撃手の失策を誘った。犠打後に先制中犠飛の山田哲は「安打がなくても1点をとるのがテーマの1つ。安打を打ちたい気持ちもあるけどチームの決め事なのでできてよかった」と喜んだ。

 2回まで22球で完璧に抑えられた能見から下位打線で先制機を生み5回で81球投げさせた。小川監督は「サインに忠実に普段やっていることができた。今日の能見は簡単に打てない。その中でああいう攻撃ができたのは良かった。いいゲーム」とうなずいた。今季の攻め手は強打だけじゃない。あの手この手で敵を土俵際に追い詰める。【浜本卓也】