エースがシーズンの瀬戸際で最高の輝きを放った。楽天則本昂大投手(28)が、8回3安打無失点と二塁も踏ませぬ完璧な投球で1カ月ぶりの4勝目を挙げた。クライマックスシリーズ(CS)を争うロッテと最後の直接対決を制し、チームは3連勝で15日ぶりの3位に浮上。これ以上ない弾みをつけ、首位を走る西武との4連戦に向かう。

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マウンドで一切の隙を見せなかった則本昂の表情が一気に緩んだ。「いや~、しびれました」。エースの仕事に充実感がにじんだ。

出ばなをくじかれても、力まなかった。1回。先頭荻野に初球をはじき返された。「どんな形でもゼロに抑える。自分の仕事に集中した」。続く鈴木を二ゴロ併殺に仕留めた。8月28日のロッテ戦でも、初回先頭の荻野に打たれた。けん制で刺したが、リクエスト判定に時間がかかるうちにいら立ちを募らせた。心を乱し、2回4失点(自責1)で降板を命じられた後悔を繰り返さなかった。

丹念に低めに集めた。4回に計測したこの日最速153キロも、アウトローに突き刺した。7回、マーティンとの11球に及ぶ長丁場では、最後にカーブを選択して空振り三振。球数100球に達したが、わずか1点リードの8回も続投。「1つも落とせない。勝つためなら、どんな采配でもいいという気持ち」。3月の右肘手術後最長イニングを投げきり「自分らしい、術後の中では一番納得の投球ができた」とうなずいた。

7月の1軍復帰後、中6日の登板間隔を維持してきた一方、もどかしさもあった。「(手術の影響で)調整というより、体のメンテナンス的な部分で難しさがある。ただ、(1軍で)やっている以上は、その中でやる。休む選択肢もないので」。今回は前日に投げた美馬と順番を入れ替え、中7日。入念な準備で臨んだ、絶対に落とせない一戦。「自分が周りに気を使っていられるような状況ではない」。ストイックに、あえて自らの世界に集中し、投球は研ぎ澄まされた。

平石監督は「素晴らしかった。最高の投球」と賛辞を惜しまなかった。残り6試合のうち、5試合が西武戦。「状態のいいチームが相手。腹をくくって、ファイティングポーズを取って向かっていく」。エースのこん身の投球を受け、指揮官がラストスパートの号令をかけた。【亀山泰宏】