長嶋超え近本極意は「落合打法」桧山進次郎氏・分析

<解体新書 桧山進次郎氏>

阪神近本光司外野手(25)が今季、長嶋茂雄が1958年(昭33)にマークしたセ・リーグ新人記録を更新する159安打を放つ大活躍でチームの3位浮上に貢献した。

61年間、誰も破れなかった神様超えのヒットはどう量産されたのか。阪神一筋22年、現役時代に4番や代打の神様で活躍した桧山進次郎氏(50=日刊スポーツ評論家)が打撃の極意に迫った。【取材・構成=松井清員】

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近本の一番の特長は、しっかりした自分の打撃スタイル、形があることです。追い込まれたり、左打者に左投手が来たりして打ちづらい時は、よく「逆方向へ」といわれます。でも近本は、そういった打撃は考えていないと感じます。実際に逆方向を狙うと、体がその方向に流れてバットが下から出やすく、かえって仕留める確率が下がります。

では、苦しい時にどう打っているのか。ここにセ・リーグ新人最多安打を量産できた理由がよく現れています。キーワードは「ヒッティングポイント」です。近本は気持ち良く打ちたいポイントをあえて捕手寄りに少しズラし、出来るだけ長くボールを見ようとしています。当然、詰まりも多くなります。でも彼は右投げ左打ちの作られた左打者ではありません。左利きの左打者なので、利き手の左手でボールを押し込むことができています。持って生まれた利点をフルに生かし、ヒットにしているのです。

具体的な場面で見てみましょう。連続写真は9月18日のヤクルト戦(甲子園)、第4打席で放った通算152安打目の中前打です。

<1>の構えは言うことありません。打ちにいった時の<2>で右腰が上がり過ぎ、バットが下から出やすくなるのですが、<3><4><5>でしっかり戻し、腰の回転が地面と平行になるように形を作っています。カウントは1-1ですが相手は左腕のハフなので、あらかじめポイントを近くに置き、変化球を頭に入れながら、やや内寄り甘めの真っすぐを瞬時に腕をたたんで打ったインパクトが<6>です。ポイントが近くなったので、やはり差し込まれています。でも<7><8><9>を見ると、しっかり左手でボールを押し込めているのが分かります。これは左利きの左打者ならでは。詰まっても力負けせず、ヒットの打球が飛ぶわけです。

金本選手がキャンプなどで左手1本でティー打撃をしているシーンがよくありました。彼は右利きの右投げ左打ちです。長打を打つために必要な左手の押し込み不足を補い、強化する鍛錬をしていたのです。左打者にとって、右手でのバットコントロールと同様に左手は重要です。左利きの近本は左手で押し込める力が強く、左右中間を抜く長打や本塁打を打てるわけです。打撃の形を変えず、状況に応じてポイントの前後だけを変えて打つ。内は引っ張って、外は左へ。コースに逆らわないセンター中心の打撃が真骨頂で、グラウンドを90度いっぱいに使った打撃ができていました。体幹、下半身もしっかりしているから形崩れもしない。ヒットがしばらく出ない期間があっても、状態が悪く見えないのはそのためです。私の思うところ、3冠王の落合博満さんも形を変えず、ポイントを前後させて打つスタイルでした。特に右手の押し込みが強かったので、右中間スタンドに運ぶ場面がたくさんありました。高い技術が必要で簡単ではないですが、ヒット量産のヒントを感じます。

近本はタイプ的には赤星選手より一回り、二回り大きな選手になるのではと思います。1年目での大活躍は大きな自信になり、来季はマークが厳しくなっても自分の打撃スタイルがあるので、3割を狙えるでしょう。社会人でお給料をもらって働いた経験もあって、考え方もしっかりしている。浮かれず地に足をつけて、もっと進化しようと課題を見つけて努力するはず。近い将来、首位打者争いにも入ってくると感じる素材で、来季以降がますます楽しみです。

◇プラスα◇

近本は凡打の仕方を工夫すれば、さらなる成績アップが期待できます。今季、走者一塁の打席でフライアウトも散見されました。でも併殺打2個の結果の通り足が速いので、転がせば自分が一塁に残れる可能性が高まります。例えば9番投手が出塁して近本が1番の場合、併殺崩れで走者が入れ替わると投手はベンチで休めます。一塁に残った近本には盗塁チャンスが増えます。走って好機を広げればチームは盛り上がり、近本の数字も上がる。実際、赤星選手はその意識が強い選手でした。ヒットを打たないといけないと力むのではなく、転がせば何とかなると思って打席に入ると、気持ちが楽になって結果、ヒットも出やすくなるものです。視野を広げて、走攻守の状況判断がもっと的確になれば、より一層野球が面白くなると思います。

◆今季の近本 3月29日の開幕戦ヤクルト戦に2番・中堅で先発しデビューした。阪神ドラフト入団新人では初めて4月までに4本塁打を放つなど長打力も披露。4月から5月にかけての13試合連続安打は、球団ドラフト新人最長となった。7月13日の甲子園での球宴第2戦では、先頭打者本塁打とサイクル安打を達成し、MVPに輝いた。9月5日DeNA戦で137安打とし、高山俊を抜いて球団新人最多安打を達成。同19日ヤクルト戦で154安打に伸ばし、長嶋茂雄(巨人)を抜いてセ新人最多となった。36盗塁を走ってタイトルも獲得。セ新人特別賞を受賞した。来季年俸4500万円で契約更改。昇給額3000万円は、新人野手で球界最高となった。

◆落合博満◆ おちあい・ひろみつ。1953年(昭28)12月9日、秋田県生まれ。東芝府中から78年ドラフト3位でロッテ入団。首位打者、本塁打王、打点王を各5度獲得し、3度の3冠王。中日-巨人-日本ハムと移り、生涯成績は打率3割1分1厘、510本塁打、1564打点