14年ぶりに西武復帰した松坂大輔投手(39)が「侍対決」を制し充実の19日間を締めくくった。宮崎・南郷キャンプ最終日の19日、打撃投手として登板。公式戦さながらの準備をして投げ込んだ55球で、侍ジャパン常連の源田、外崎をうならせた。

3日のブルペン投球から始まり、8度のブルペンと打撃投手登板で着実にステップアップした平成の怪物が、高知へと場所を移しさらにギアを上げていく。

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松坂がマウンドに帰ってきた。公式戦さながらの緊張感。左翼ポール付近に向かいストレッチ、キャッチボールを行うとブルペンで肩を温め、マウンドへ向かった。

対打者のマウンドは昨年8月以来。初球カーブから始まった55球は、直球に持ち球の変化球を惜しみなくまぶした。投げ終えると、再びブルペンへ向かい“おかわり”投球。「強いストレートを投げたいと思ったけど、バテてましたね。バッターに投げるといい緊張感、気持ちの張りがあって思ったよりも疲れました」。最後は拍手に会釈で応えた。

打者4人に11打席投げ、安打性2本に抑えた。頭の中で描く実戦へのステップはシンプルだった。

松坂 第1に、変化球でストライクが取れるかどうか。それができれば「こういうストライクを投げたい」とか、ストライクを投げられる中で「こういう軌道にしたい」とかが出てくる。曲がり球に関しては投げたいように投げられた。

侍の実力者を封じた。先頭の左打者・源田へのカットボール。2打席目の4球目と、3打席目の4球目だった。いずれも外のボールゾーンからストライクゾーンへ食い込ませ、見逃しストライク。右打者の外崎にも、外角ツーシームで強烈な印象を与えた。第3打席の3球目から3球連続投げ込む。3球目に手を出させてファウルでカウントを稼いだ。執拗(しつよう)な「外攻め」を受けた現役の侍たちは、打席での体感を、素直に言葉にする。

源田 カットボールがめちゃくちゃいい。手が出なかった。ボールだと思って見逃したら、ストライクゾーンギリギリのところに入ってくる。手が出ない。

外崎 ツーシームを外に投げていたことが珍しかった。ツーシームはインコースにくるものというのが、僕のイメージ。実戦になると球種も多いので、バッターが絞りづらい。味わったことがないですね。

19日間に及ぶキャンプは、3日のブルペン入りから始まった。立ち投げから膝立ち、座りと、8度のブルペンの過程で483球投げ、1歩1歩進んだ。締めくくる打撃投手登板で、技巧派の太い生命線を示した。

自ら「最大の武器」とするカットボールを含めた変化球。「嫌だったボールを動かす投球スタイル」を受け入れたオールドルーキーが、次は実戦へ向かう。「バッターに投げると、感覚も変わってくる。実戦の中で修正していかないといけないと思っているけど、できると思っている」と次は実戦登板を見据える。

最終クール、若手投手陣に声をかけた。自身と同じドラ1選手の高橋光(14年)今井(16年)に、若手有望株の平良と相内。山奥の秘境にある地鶏屋に向かった。炭火でもうもうと煙立つ中、後輩たちにアドバイスを送った。「その日のことはその日まで。次の日に引きずらないで、切り替えることが大事」。勝っても負けても、そうやってプロの世界で長い歳月を過ごしてきた。

確かな手応えをつかんで高知へ向かう。1日1日大事にしてきた松坂は、ちょうど1カ月後に本拠地・メットライフドームで開幕するシーズンのことは、まだ考えられない。「(1軍でのイメージは)まだですね。試合で投げて、実戦をこなしていく中で、だんだん近づいていく、またそこで上で投げるイメージができるといい」。投球スタイルは変わっても、調整スタイルは変わらない。投げて、投げて、投げ続けてこそ、1軍登板がくっきりと見えてくる。【栗田成芳】