首位を“リード”するのは、エースだ。巨人菅野智之投手(30)が、12球団ナンバー「ワン」のスピードで完封勝利を挙げた。中日打線を「1」安打に封じ、応援“犬”の前で今季2勝目をマーキングした。19年7月2日の中日戦(東京ドーム)以来の9回無失点。この1勝で原辰徳監督(61)は、長嶋茂雄終身名誉監督(84)が持つ球団歴代2位となる監督通算1034勝に王手をかけた。

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8回を投げ終えた菅野は、ベンチで宮本投手チーフコーチと笑顔で話し始めた。「宮本さんの方から『チーム初完封いってほしいな』と言われたので、行かざるを得ないですよね。自分もそのつもりでした」。8回終了時点でワンワンワン(111)球だったが、9回でもチームを“リード”する力は落ちない。1死から福田をこの日、最速152キロ直球で見逃し三振。最後は7回1死にノーヒットノーランを打ち砕かれたビシエドを外角フォークで片付け、その1安打で完封勝利を飾った。

バックネット裏の最前列に座っていた12匹の大型犬は、試合後もおとなしかった。ヒーローインタビューに登場した菅野の邪魔をしまいと「ワン」とほえることもなければ、走り回ることもない。菅野は「去年の精神状態だとこういう競った試合で取れないと思いましたし、気持ちもどうしても後ろ向きになっていたように感じるので。久しぶりに自分を奮い立たせられたと思います。そこが一番去年との違いだと思います」。目の前で見ていた応援“犬”の前でワンダフルな投球を披露した。

無観客の中、球場に現れた応援犬の正体は、同場所に設置されたLEDビジョンに映されたもの。菅野が15年から支援活動を続ける日本介助犬協会の犬たちの写真による演出だった。大の犬好きである菅野は、昨年11月には介助犬サポート大使に就任した。

癒やしを与えてくれるワンちゃんへの愛は止まらない。今年6月には、同協会から販売されたTシャツを自腹購入し、チームスタッフなどに配布した。この日は、チーム広報もそのTシャツを着て、心優しきエースをバックアップした。売り上げによる収益は介助犬の育成・普及活動などに充てられる。少しでも手助けを-。そんな紳士の極みの男を今度は自分たちが-。愛くるしいラブラドルレトリバー、ゴールデンレトリバー…がワンマンショーを癒やしの笑顔で見届けた。【栗田尚樹】

◆菅野の原点力 右の強打者がそろう中日打線に対し、外角低めのストライクからボールになる変化球を徹底して集めた。スライダーとフォークボールの精度が抜群で、思わず手を出しても届かないピンポイント。しかも曲がりだしも遅く「手を出さざるを得ない」が適切な表現だろう。6回途中5失点の前回ヤクルト戦から中6日で見事に修正してきた。