さあ、Vへ突っ走れ! 矢野阪神に頼れる左腕が帰ってきた。先発高橋遥人投手(25)が中日打線から10三振を奪い、7回2安打無失点の快投で今季初勝利を挙げた。プロ4年目は先発陣の軸として期待されたが、故障に泣き、これが2試合目の登板だった。完全復活の投球で、首位をがっちりとキープ。先発ローテーションに厚みが増し、16年ぶりのリーグ制覇へ明るい材料だ。

   ◇   ◇   ◇

7回のマウンドは、完全復活への最後の試練だった。1点を先制した直後で1死一塁。高橋が中日の主軸を迎える。主砲ビシエドに対し、ツーシームでバットの芯を外し、左飛に。昨年までの同僚福留には、力で押した。直球で遊ゴロに打ち取り、髪をかき上げて大きな息をついた。「ふーっ」。10三振を奪い、7回を無四球無失点。今季2度目の登板で、左腕が本来のキレ味を取り戻した。「うまくいかないことがたくさんあってチームに迷惑かけたんですけど、こうして勝つことができてホッとしました」。329日ぶりの勝利をかみしめた。

悲壮な覚悟で臨んだ。登板前に、捕手の坂本に心境を明かしていた。「腕がもげても投げる」。今季は先発ローテーションの軸として期待されながらも上肢コンディション不良で長期のリハビリ生活を過ごした。「迷惑しかかけていないので、本当に試合をつくろうと思っていた」。今季初登板となった9日のヤクルト戦は4回6失点。故障に泣かされ続けたが、恐れずに腕を振るつもりだった。その気持ちは野手にも伝わっていた。この日の試合前、円陣で陽川が叫んだ。「遥人が『死ぬ気で投げる』と言っていたので、野手が引っ張って、打って勝ちましょう!」。緊迫の投手戦となったが、チーム一丸で1-0の接戦を制した。

2軍生活は苦しかったが、下を向かなかった。時には「先生役」として後輩を指導した。ルーキーの村上を筆頭に変化球のノウハウを惜しみなく教えた。村上は「ツーシームを教えてもらって良くなったんで。遥人さんに感謝です」。ウエスタントップの9勝を挙げるほどに成長。つらいリハビリにも余裕をなくすことなく、後輩たちと前を向き、成長の場とした。

チームは首位の座にいながら、エース西勇が寝違えで離脱。青柳も3試合勝ちがつかず、不安材料となっていた。矢野監督も「俺らが優勝するっていうところの中のピースで遥人が帰ってくるというのは、大きな要素の1つ。チームにとっても大きな投球をしてくれた」と喜んだ。逃げ切りVへ、先発陣に頼れる左腕が帰ってきた。【前山慎治】

▼阪神高橋が7回を投げ10奪三振。高橋の2桁奪三振は通算4度目で、自己最多は20年10月5日の巨人戦でプロ初完投したときに奪った14個。今季の阪神で2桁奪三振の投手は、4月8日巨人戦の秋山(6回10奪三振)、7月1日ヤクルト戦のガンケル(7回10奪三振)に次いで3人目。高橋は19年から3年連続で2桁奪三振をマークしている。