広島が来季からの新監督として球団OBの新井貴浩氏(45)に就任を要請し、内諾を得たことが7日、分かった。

「広島新井貴浩」と言えば2つの像が思い浮かぶ。

1つは、若い頃の泥だらけの新井。もう1つは広島復帰後の愛されたベテラン新井。新監督を決める上で、球団にとってはその両面が魅力的なものだった。

■若手新井の苦しい経験

若い頃はまだ体の線が細かったこともあり、とにかく練習を課された。試合前練習でさえも泥だらけになってノックを受けた。

広島の2軍施設である大野練習場(広島県廿日市市)には「練習ハ不可能ヲ可能ニスル」と記された石碑がある。ドミニカ共和国のカープアカデミーにさえもスペイン語に翻訳された同様の言葉が書かれている。

たたき上げでレギュラーにのぼりつめた新井氏はまさに、練習で不可能を可能にした男。球団幹部も「自分がやってきたこと(練習量)を若い子に要求してほしい。『練習ハ不可能ヲ可能ニスル』という言葉を体現した1人」と、その経験を買って監督としての指導を期待した。

■ベテラン新井の対人力

14年オフに阪神から広島に移籍したのちは、以前に増して多くの人に慕われた。その愛嬌(あいきょう)に加え、コミュニケーション能力も高く、親しみやすい存在だった。

現在もチームの中心選手である菊池涼介内野手(32)や会沢翼捕手(34)らは選手としてプレーをともにした。今回はコーチの経験なくして登用されたが、球団は「仲間がいるのでゼロではない」と不安視はしていない。「(菊池涼や会沢らの)ベテランと一緒に戦っていて気心が知れている。もちろん監督の仕事はしないといけないが、『監督』という感じではなく、仲間のリーダーという感覚でやってほしい」。08~12年まで労組プロ野球選手会会長を務めるなど、リーダーとしての素質に申し分はない。

■「目指すものは当然優勝」

チームは4年連続でBクラスと結果が出ていない。今季に限っては26盗塁と、自慢の機動力も使えなかった。前半快調だった先発陣も後半に失速。果たすべき課題は多い。球団としても「再建と若返りという命題もある」。

だが一方で「目指すものは当然優勝」と見据え、23年以降を新井氏に託した。

若い頃はたたき上げでレギュラーをつかんだ。年を重ねてからは秀でた統率力で組織をけん引した。苦楽を知る新井氏に期待は大きい。【前山慎治】

 

 

◆新井貴浩(あらい・たかひろ)1977年(昭52)1月30日、広島県生まれ。広島工-駒大を経て98年ドラフト6位で広島入団。05年に球団タイの6試合連続本塁打。07年オフにFAで阪神に移籍。08年北京五輪では日本代表の4番を打った。同年12月から12年まで労組プロ野球選手会会長。14年オフ、阪神に自由契約を申し入れ広島に復帰。通算2000安打を達成した16年に打率3割、101打点でリーグMVP。05年本塁打王、11年打点王。ベストナイン2度、ゴールデングラブ賞1度。実働20年の通算成績は2383試合、7934打数2203安打(打率2割7分8厘)、319本塁打、1303打点。189センチ、102キロ。右投げ右打ち。