阪神岡田彰布監督(64)はどんな野球でチームを勝たせるのか。タイガースOBの日刊スポーツ評論家陣が人柄や思い出も交えてエールを送る第4回は、鳥谷敬氏(41)です。岡田第1次政権の初年度がプロ1年目と重なったレジェンドが、5年間ともに戦った指揮官を選手目線で語った。【聞き手=佐井陽介】

    ◇    ◇    ◇

岡田監督はある意味、選手の逃げ道をなくしてくれる監督です。1度目の阪神監督を終えられてから14年、オリックス監督を終えられてから10年がたちました。その後の経験値もあるので、自分が知る姿がそのまま今に当てはまるとは思いません。ただ、選手が一番活躍できる環境作りにベストを尽くしてくれる監督に変わりはないでしょうね。

阪神監督1年目だった04年がちょうど自分のルーキーイヤー。当時は選手に言葉でどうこう伝えるというよりは、起用法を通じて選手に感じ取らせる監督だったように記憶しています。自分の場合は岡田監督時代の08年までの5年間、オープン戦はほぼ全試合出場。当時は「どんなことがあってもオマエは使い続けるぞ」というメッセージを受け取ったつもりです。監督の意図を正しく感じ取れる選手が多ければ多いほど、チームはよりうまく回っていくのではないでしょうか。

岡田監督は選手の役割を明確にするタイプでもあります。レギュラー、相手先発の右左で併用、代打、代走…。役割を分かりやすくすれば当然、選手は準備しやすくなります。自分の現役時代を振り返れば、二塁は藤本さんと関本さん、外野は林威助さんと桜井が投手の右左に合わせて先発。一方、主軸はよほどのことがない限りは出続けました。選手を信頼して環境を整えてくれる。それは選手目線で見れば、結果を出せなければ自分の責任、という考え方にもつながります。

選手は時に面白い生き物です。不調時にスタメンを外されると、その瞬間は「えっ…」と悔しくなるのに、冷静になれば「ちょっとラッキーだったな」と感じたりもします。周囲から「何で代えるんだ、信頼しろよ」と声が飛んでも、当の本人がホッとしているパターンも意外と多いのです。打てる可能性が低い投手で5打数ノーヒットの想像がついていたら、誰だって本音はそんなものです。特に現代野球は毎日出るのが主流ではなくなってきています。たまの休みに違和感がない選手も増えたと思いますが、岡田監督の場合はそうはいかないでしょうね。

特に主軸は調子や相性に関係なく、ずっと試合に出続けるでしょう。もちろん、相性が悪い投手でもスタメンです。そうなると、どれだけ調子が悪くても逃げることはできません。それは守備位置にしても同じです。ポジションがコロコロ変わると、選手には「ミスが出ても仕方がない」と言い訳の余地がどうしても生まれてしまいます。ただ、岡田監督の場合はそんな逃げ道も通用しなくなります。選手はそんな環境をやりがいに感じて、今まで以上に責任感を持って、自身の成長にもつなげてほしいと願います。

岡田監督は基本は守りを軸に考える監督でもあります。ある程度はセンターラインも固めて、投手を中心に「守れば負けない」という戦い方が予想されます。現役時代に二塁を守っていたこともあって、今まで以上に守備の細かい連係も重視されるのではないでしょうか。二遊間にしか分からない独特の呼吸を理解されていて、その2人にしか取れないゲッツーといった形も大事にされると思います。これから二遊間の選手にはそういう精度、1個上のランクが今まで以上に求められていくはずです。

「阪神タイガースのために何ができるか」という思いが人一倍強い方。あれほどタイガースのことを考えられる人はきっと数少ないはずです。その瞬間に勝つことはもちろんのこと、この先のタイガースが常勝軍団になるためにこの選手をどのポジションで使うべきかを、冷静に考えられる監督。自分が指揮を執る間に勝つだけではなく、これなら何年も戦っていけると考えた布陣を大事にしていくのではないでしょうか。

【関連記事】阪神ニュース一覧>>