8回1死、オリックス山田の内角に食い込む139キロシュートを迷い無く振り抜いた。右翼スタンドに一直線で向かって行く打球を横目に、西武西川愛也外野手(24)は速度を緩めることなく一塁ベースを回った。打球が右翼席へ着弾するのを見届けると、小さく右手を握りしめた。プロ通算100打席目で生まれた待望のプロ初アーチだ。「やっぱり何も考えてない時に出るんだな」とベースを一周しながら無の境地だったことに気づいた。

節目はいつもゾーンに入っている。花咲徳栄(埼玉)時代、16年春のセンバツで甲子園初安打を放った時もそうだ。初戦の秀岳館(熊本)戦、第2打席で3球目の直球を右前に聖地初安打。ただ記念の一打も集中のあまり記憶はない。試合直後の囲み取材で、どんな球を打ったか聞かれ「適当に『初球のスライダーを打ちました』と答えました。映像見たら全然違って」というエピソードも明かした。17年夏に全国制覇を達成した時も「全く覚えてないんです…優勝の瞬間は覚えてるんですけど」と試合中はアドレナリンMAXだ。

プロ入り後はもがいてもがいて、考えて考え抜いてきた。20年8月16日にプロ初安打となる適時打を放った。しかし初安打から2年以上、1軍で62打席連続ノーヒット。ファームで理想の打撃フォームを追い求めた。そして4月30日の楽天戦(ベルーナドーム)、63打席ぶりの安打を放つと「クビを考えていた時もあったのでホッとした」と安堵(あんど)の涙を流した。それくらい不安に駆られる長い日々だった。

ようやくたどり着いた無の境地を武器に、中堅のレギュラー争いに殴り込む。19日のソフトバンク戦(ペイペイドーム)から3試合連続で9番中堅でスタメン出場すると、3試合で7打数3安打。四球も2つ選び、犠打も決めている。松井監督も「地道にやってきてくれた結果だと思う。今後もチャンスはある」と期待を寄せた。今日の記念球は母にプレゼントだ。レギュラー獲りへ「ここから巻き返す」と24歳の獅子のごとき逆襲は、まだ始まったばかりだ。【黒須亮】

【動画】西武西川愛也がプロ初ホームラン 直球をライトスタンドに 6年目本拠でファンに届ける