左翼応援席の「チャンステーマ4」が歓声で途切れた。
4番に座る西武渡部健人内野手(24)が、夜空に高々とかっ飛ばした。
1点を先制した8回、なおも2死二塁。渡部はこの日、すでに3打席連続で空振り三振を喫していた。
「3打席同じ感じの三振をしてしまったので、逆に気持ち切り替えてっていうか。どうせ三振するんだったら、三振するんだろうから」
くよくよせず割り切って振る。白球が舞い上がる。約6・5秒。スラッガーらしい高弾道を描き、5号2ランが左翼席でポーンと跳ねた。
「中村さんとか山川さんとかも、ああいう弾道でホームラン打ってるんで。なんか気持ちいい、全力で走らずに…いやいや、走るんすけど(笑い)」
3三振後の本塁打は自身初。天敵オリックスに勝利を決めただけに、1発の価値は大きかった。
チームの成績は苦しい。でも愛称“ベッケン”は明るく朗らかだ。
8月末の仙台遠征中、髪をばっさり短くした。
「髪の毛長くなってきて、中途半端になっちゃったんで、そこで気合入れようと思って」
仙台市内の有名な理髪店に足を運んだ。サイドを刈り込み、トップは短いパンチパーマに。「なんか、バズニグロっていう髪形らしいです」。そんな斬新な短髪に汗を浮かべながら、ますますの活躍を誓う。
「1発っていうのはチームの雰囲気も試合の流れも変わると思うので。そういったところでまた打てるようにやっていきたいなと思います」
山川の次代を担う4番候補と期待されてきた。プロ3年目、思いもよらぬ事態にはなったが、渡部にとっては大チャンス。華のある1発は前途洋々な未来を感じさせる。【金子真仁】