残りのエネルギーを凝縮するように身を小さくし、ほえた。西武田村伊知郎投手(29)の雄たけびが大歓声にかき消される。
「自然と、です。出ちゃいましたね」
魂のガッツポーズを照れながら振り返る。1点リードの8回を託された。味方失策で先頭打者に出塁を許すも、そこからのロッテ中軸3人を直球とフォークで押す。最後は147キロで井上を空振りさせ、得点を許さなかった。
「いつも柘植に引き出してもらってるんで、柘植のリード信じて思い切ってぶち込みました」。
味な言い回しをした。普段はそう口数は多くない。男は黙って…のタイプ。ただ今季前半戦は2軍でクローザーを任され、同じようにほえることもあった。
「毎回、これが最後みたいな気持ちは本当に持っているので、それが無事に終わったっていうところで(のガッツポーズ)…ですかね」
これが最後-。報徳学園(兵庫)時代に1年生から甲子園でならした好投手は、この日がプロ入り後99試合目の登板だった。通算成績は2勝2セーブ5ホールド。アマチュア時代の華やかさを思えば、決して派手な見栄えではない。
「あれくらいなら全然、きれいな方ですよ」
この日のマウンドを振り返って笑う。プロ99試合、全てリリーフ。きれいなマウンドとは久しく無縁だ。さらに。
「身長低いんで、誰とも歩幅が合わないんです。特に外国人投手が投げた後とか、絶対合わないんで。合わせられないっす」
左足の着地地点は、多くの投手に先を行かれる。球団の公式発表では身長173センチ。「中3から身長、変わってないです」と田村は話す。
神戸市出身。緑の多いエリアで育った。「報徳までめっちゃ遠かったっす。片道1時間半。朝5時半に起きて、夜は練習終わって10時とか11時に帰って、メシ食ってすぐ寝て、また5時半起き。そのせいで身長伸びなかったです」。
高身長から投げ下ろすリリーフ投手も増えた昨今、小柄でもグイグイと小気味よく押す。どんなマウンドでも工夫と我慢でうまくさばきこなし、どんな場面でも投げる。春先の2軍リリーフが、いまや1軍で必勝リレーに加わっている。
「どこでも自分の100%を出す、これは絶対に変わらないと思うんで。今日もそこにフォーカスしてやっていこうっていうだけでした。結果より、目の前のことをちゃんと100%できてるか、その自問自答って感じですね」
だからよく落ちる決め球をフォークと言われたり、チェンジアップと言われたりするけれど、どっちでもいい。
「フォークに近いのかなー。普通にはさんで腕を振ってるだけです。まぁ、名前はあまり気にはしてないです」
職人気質が頼もしい。もう負けられない時期に勝てる投球ができるから、なおさら頼もしい。【金子真仁】