阪神坂本誠志郎捕手(29)が感情を爆発させた。1-1で迎えた4回2死一、三塁。床田の初球142キロ直球を捉え、三遊間を破った。ほえた。ベンチの仲間へ向かって力強く指さし、一塁へ走った。「打つ方で迷惑かけてたんで、思いがちょっと出ちゃいました」。今CS9打席目での初安打が、一時は勝ち越しとなる左前適時打。気迫で甲子園を熱狂させた。

再び同点となった6回2死一、二塁。右前に落とすタイムリーで今度こそ決勝打だ。「どんな形でもランナーをかえすことができてよかった」。床田から今季初安打どころか、適時打2本。梅野の負傷離脱後、扇の要を務めてきた男がCS突破の立役者となった。

優勝争い真っただ中の夏、原点を思い出した1日がある。8月19日のDeNA戦。栄枝が代打で犠打を成功させた。試合後、そっと後輩捕手に語りかけた。

「俺も思ってたよ。『ダイバン(代打バント)するためにプロ野球選手なったんちゃうぞ…』って」

新人だった16年の8月4日DeNA戦。2点ビハインドの9回無死一、二塁で代打犠打を決めた。直後に同点に追いつき、延長戦の末に勝利。坂本にとってプロ通算6打席目だった。

原口、岡崎、梅野、鶴岡…。坂本を含め8選手が1軍で捕手として出場したシーズンだった。ルーキーが自らのバットでアピールしたいのは、ごく自然なこと。あれから7年。今だから分かることもある。

「悔しい思いはあると思う。でも、キャッチャーって、そういう細かいことの積み重ねで信頼を得て、試合に出させてもらえるようになるんやで」

与えられたポジションでの積み重ねが未来につながると知っているから、後輩に捕手として生きる道を説いた。

初戦は死球から得点を呼び、前日19日の9回には四球出塁からサヨナラ劇につなげた。「大事なゲームを勝ち切れて、ちょっと自信にもなりました」。つないで、つないで、つないできた男が、ついにヒーローになった。【中野椋】

【関連記事】阪神ニュース一覧はこちら―>