ENEOS合宿所の食堂を、糸川亮太投手(25)は抜け出した。26日、ドラフト会議がどんどん進む。

西武が評価してくれていることは聞いていた。でも。

「4巡目指名くらいまでで投手を4人指名なされたので、これは厳しいんじゃないかと思って、気まずくなるのはあれなので」

仲間たちに「部屋に戻って見させていただきます」とちゃんと断ってから、食堂をあとにした。

川之江(愛媛)、立正大を経て入社し、3年目のシーズンだった。身長174センチで、シンカーが武器の右腕。もう1つ、突き抜けられなかった。

転機。ENEOSの大久保監督を介し、シンカーの第一人者の教えをこう機会があった。そのレジェンドこそが、西武の潮崎哲也編成ディレクター(54)だった。

「全部良くなりました。変化量も大きくなったし、打者がびっくりするような反応をし始めて。どうやって投げるのか、自分の中で言語化ができていなかったので、それを教えていただいて」

手首の角度などを修正し、飛躍。いろいろな軌道。縦の糸川、横の糸川。シンカーだけで3種類くらい投げ分けられるように。潮崎ディレクターが「キレ味とか、カツンという曲がり角とかは、非常にいい球ですね」と評価するまでになった。

ただ、ドラフト指名には運もある。どこかの球団の予想外の指名で、ドラフト会議全体の流れが一変してしまうこともある。7位、もうないのか-。

「部屋でケータイで、1人で見てました。正直に言うと、ほんとにもう、ダメかなという気持ちもあったので…」

糸川亮太-。よく知った名前が見える。聞こえる。廊下に飛び出た。誰もいない。シーン。食堂に駆け降りた。ワーッ!!

「みんなめちゃくちゃ喜んでくれて、胴上げもしてくれて」

そんな中でも「びっくりして、もう感情が追いついてこなかったので」と振り返る数時間。9時、10時と夜が更けていく。

「いろいろ記者会見とか終わって、夜に寝ようとした時にいろいろ思い出して」

今では白い歯を見せながら振り返られる。涙を流したのは、チームメートの度会(DeNA1位)だけじゃなかった。

「泣きました。部屋で。冷静になるにつれて泣きました。普通に泣きました。泣けてきました」

いろいろな人と交わり、野球人生を織りなしてきたからこその、男泣き。

潮崎ディレクターは「そこに入ってくれたらな、というところです」と、難しい手術を受けた森脇亮介投手(31)が担った役割を、即戦力として期待する。

糸川は言う。

「任されたところで。どこに行ってもじゃないですけど、野球やってる上でチームが必要としているところで頑張りたいというのがあるので。中継ぎというところになるとは思うので、そこのピースにしっかりはまれるように全力でやっていきたいです」

勝利へとつなぐ、獅子の糸になる。白星にうえた西武ファンは糸川の好投がつむぐ結果を、きっと幸せと呼ぶ。【金子真仁】