西武は10月31日、マーク・ペイトン外野手(31)に来季の契約を結ばないことを通達したと発表した。

173センチと助っ人にしては小柄な左打者で、首脳陣は1番打者候補の1人として計算していた。

スタートダッシュは素晴らしかった。「走魂」をチームスローガンに掲げた今季、南郷キャンプ初日、いきなりベースランニングから始めた。ペイトンも倣う。全力で一塁を回り、スライディング練習も緩めずに行った。助っ人なのに、泥にまみれた。

キャンプ序盤から手を抜かない姿を見て、外崎修汰内野手(30)は「いや、めっちゃ真面目じゃないですか? すごく真面目で意欲的で。逆に、あんな走って大丈夫かなって思います」と笑いながらたたえ「実は…」と続けた。

「昨日、ペイトンとご飯に行く機会があったんです。ゲン(源田)と、あとは秋山さんも来てくれて」

元西武、現広島の秋山翔吾外野手(35)はレッズ時代、ペイトンとチームメートだった時期がある。ペイトンが日本への興味を深めるきっかけになった人物でもある。外崎が続ける。

「今までの外国人選手ってどうだった? みたいなことを聞いてきたんですよ」

調子や気分、コンディションがプレーに出てしまう-。そんな助っ人も過去、いるにはいる。

「自分は絶対にそういうことないから、って。すごく気持ちの強さを感じましたね。日本の野球に対応していこうという気持ちが見えましたね」

どちらかというと日本人選手のようなプレースタイルとマインド。渡辺久信GM(58)は「こうなってくれれば、という理想型はあるよ」とペイトンの練習を見ながら話した。

「バナザード、だね」

渡辺GMも現役時代に対戦した、かつて南海ホークスで二塁を守った両打ち助っ人。トニー・バナザード内野手に印象を重ねた。

令和のバナザード、なるか。ペイトンはオープン戦はそれなりに安打を重ね、しかし、少しずつ違和感が出てきた。なぜ、一塁まで全力疾走しなくなったんだろう-。

キャンプ序盤、平石洋介ヘッドコーチ(43)は「まだ、ボロが出てきている感じはないよね。このままずっと行ってほしい」と話していた。強いスピリッツが薄れてきたのか。

違った。後にチーム関係者に取材したところによると、ペイトンは人知れず、左足首を痛めていた。走りたくても走れなかった。

前後して頭部死球を受ける。しばし休む。勢いが失われ、足首の不安も消えない。開幕戦から1番打者で起用されたが、満足に打てない。4月末には1軍から姿を消した。

2月や3月には「Hi!!」とさわかやなあいさつをしてくれたペイトンの表情が、少しさえない。3軍や2軍で徐々に状態を戻し、実戦でバットを振る。でも結果が出ない。

「日本一やリーグ優勝に貢献するためにシーズンを始めたのに…」

首をひねった夏の日。歯車は狂ったままだった。最終的に57試合、打率2割1分5厘、5本塁打。バナザードにはなれなかった。

渡辺GMは「真面目すぎたのかな」と残念そうだった。いろいろな局面で真面目だった。輪に溶け込もうと、スマホを駆使しながら積極的に日本語を学んだ。「イチ、ニ、サン…」と数字から覚えた。

英会話を身につけたい-。私もずっと思っていた。ペイトンの姿に刺激を受け、取材とか全く関係なく、互いに勉強し合いたいと思った。LINE、交換しませんか? 帰り道が一緒になり、最後にそう言おうと思って、でもスッと単語が出てこなくて、そのまま西武球場駅改札で「マタ、アシタ」と言ってくれて別れた開幕前夜。

1年はあっという間。もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。プロ野球にはいろいろな別れが、毎年ある。【金子真仁】

【一覧】プロ野球12球団 戦力外 退団 移籍 引退選手など