楽天にロマンあふれる右腕がいた。育成6年目の清宮虎多朗投手(23)が阪神との練習試合(宜野座)に登板。3回からの1イニングを3者凡退に抑えた。13球オール直球勝負で、球場表示では最速159キロを記録。全球155キロ以上をたたき出した。最速161キロ右腕が昨季日本一打線を相手に猛アピール。悲願の支配下登録へ近づいた。

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9割、いや9割9分、阪神ファンで埋まった球場をざわつかせた。楽天の育成投手が、だ。とにかく、速い。3回、阪神先頭木浪。清宮は156キロ、158キロと続け、3球目で159キロ。誰だ、あの投手は。スタンドから心の声が漏れるようだった。フルカウントから内角156キロで空振りを奪う。クルッと回ったバットは木浪の手を離れバックネットに激突。ざわめきは、どよめきに変わった。

ミエセスを右飛。近本は一ゴロに封じ、3人でピシャリ。「いいバッターがたくさん並んでいたので、自分の強みを全力で出そうと思って投げました」。190センチの長身をかがめるようにして、丁寧に答えた。オール直球と決めていたわけではない。「真っすぐでも全然、打ち取れると思ったので」。ほぼサイン通りに最大の武器で押し切った。

苦しい時期を無駄にしなかった。3年目に入った21年2月に右肘のトミー・ジョン手術を受けた。投げられない間はトレーニングと体づくりにいそしんだ。体重は85キロから増え、今は104キロ。最速も体ができるにつれ伸びた。プロ入り時145キロが昨夏ついに161キロ。昨季はイースタン・リーグのセーブ王にも輝いた。チーム投手陣ではトップのベンチプレス110キロ×3回をクリア。豊かな大胸筋。日本の投手ではあまり見ないシルエットにも「外国人投手を見れば分かるように、ストレッチ、ケアをすれば問題ないと思います」と断言。パワーを強みとする。

理想は中日の絶対的守護神マルティネス。「圧倒的なピッチングができるように」。支配下の先にクローザーを目指す。今江監督は「全体的にガンが速かった」と笑ったが、スコアラーの計測でも156キロを出しており、速かったことに変わりない。「気持ちも出てた。非常に良かった」と評価した。名字の読みは「せいみや」。日本ハム清宮がロマン砲なら、こちらはロマン腕。夢が広がる13球だった。【古川真弥】

◆清宮虎多朗(せいみや・こたろう)2000年(平12)5月26日、千葉県八千代市生まれ。八千代松陰では2年秋からエースも、甲子園出場なし。18年育成ドラフト1位で楽天入団。2年目の20年に2軍デビューし、23年はイースタン・リーグ最多の22セーブでセーブ王に。2軍通算48試合、2勝2敗22セーブ、防御率4・01。今季推定年俸500万円。190センチ、104キロ。右投げ左打ち。