リングにかける男たち

39年前フレーズだけで高揚「熊殺し」に感謝の意

空手家ウィリー・ウィリアムスが他界した。

80年2月、異種格闘技戦でアントニオ猪木(左)にハイキックを浴びせるウィリー・ウィリアムスさん
80年2月、異種格闘技戦でアントニオ猪木(左)にハイキックを浴びせるウィリー・ウィリアムスさん

80年2月、39年前か。中学の教室は大騒ぎやった。

「そんなん猪木が勝つに決まってるやんけ」

「アホ! 極真が負けるか」

ウィリー・ウィリアムスVSアントニオ猪木の格闘技世界一決定戦を前に、クラスメートのテンションは異常に高かった。私はプロレスに目覚める前で、どちらかと言えば“空手派”やったけど、別にどっちゃでも…という程度で話に加わってた。ただ、あのフレーズには仰天した。

「ウィリーは熊殺しやねんぞ」

熊? ウソやろ?

「知らんの? 映画見てへんの?」-。

いや、見てへんけど…。

極真空手の創始者・大山倍達が“牛殺し”で“ゴッドハンド”と呼ばれていることを、その後に知った。「牛と来て、熊かい」と思った。後年、漫画「グラップラー刃牙」でフルコンタクト空手「神心会」総帥愚地独歩(おろち・どっぽ)に“虎殺し”いうエピソードが登場するけど、これは完全に牛→熊の流れでしょう。

熊殺し。異名としては最強クラスやがな。要は人間離れ。愚地独歩かて「誰も信じちゃくれねえって」と言いふらしてませんから…あ、漫画やけど。ただ、ほんまならすごい、とんでもない。当時はインターネットがなかった。検索サイトも、動画サイトもなくて、情報源と言えばほぼ活字。それも東スポ以外は月刊雑誌やった。「どうやって殺したんや。とどめは拳? ひじ? 膝か?」と想像がふくらんだもんです。

だから、おもしろかった。フタを開けてみんとわからんから、テレビ中継をドキドキして見た。リングサイドは、新日本プロレスと極真空手の両陣営が殺気立って一触即発状態やった。「こんなん公開げんかやないか」と見てる方も興奮する。ほんまに手に汗握ってました。

これから先、あんな思い、ときめきはもうないでしょうね。情報があふれかえって、スマートフォン(多機能携帯電話)をちょちょっと触ったら、何でもわかる。それはそれで便利やけど、どっちが幸せなんかは微妙ちゃいますかね。昔話で、うなぎを焼くにおいをかぐだけで、飯を食うっちゅうのがありますが、それと似てるかな。その試合があるという情報だけで楽しむ。推理して、イマジネーションを妄想レベルに膨らませ、堪能する。それは超絶のエンターテインメントです。

昭和を生きたオッサンをワクワクドキドキさせてくれた。「熊殺し」なるフレーズは、ロマンの極み。ウィリー・ウィリアムスさん、ありがとうございました。(敬称略)

【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

80年2月、アントニオ猪木(左)と握手をかわすウィリー・ウィリアムスさん
80年2月、アントニオ猪木(左)と握手をかわすウィリー・ウィリアムスさん

日刊スポーツのバトル担当記者のとっておきコラム。プロレス、ボクシング、総合格闘技の現場からお届けします。

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