九州場所ではほぼ毎日、そのほかの本場所でも会場でよく見かけた。琴奨菊の父、菊次一典さん(65)はいつも、祈るように息子の相撲を見ていた。

引退が決まり、胃の痛む日々は終わる。心境を聞くと「正直言って、ホッとしています。いい時ばかりではありませんから。これからは相撲を楽しく見ることができます」と答えた。

思い出の一番には、14勝1敗で琴奨菊が優勝した16年初場所13日目、豊ノ島戦を挙げた。唯一負けた取組がなぜ思い出なのか? 「(豊ノ島とは)小中高とずっとライバルで親友だったけど、負けてしまった。でも、本人がそこから気持ちを持ち直して、最後の2日間、連勝して優勝したんです。大樹くん(豊ノ島)とは縁があるなと。相撲を通して、一弘(琴奨菊)を育ててもらったなと思えました」。あの敗戦があったからこその優勝だと、親の目には映っていた。

親方になっても、息子は息子。「本人も勉強していかないといけません。しっかりと指導にあたってもらいたいですね」と期待した。【佐々木一郎】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

琴奨菊の優勝に涙する父の菊次一典さん(奥)と母の美恵子さん(2016年1月24日撮影)
琴奨菊の優勝に涙する父の菊次一典さん(奥)と母の美恵子さん(2016年1月24日撮影)