舞台雑話

令和初「ラ・マンチャ」松本白鸚にとって特別な作品

松本白鸚(76)主演のミュージカル「ラ・マンチャの男」が10月の帝国劇場で4年ぶりに上演される。作家セルバンテスと遍歴の騎士ドン・キホーテを演じるもので、市川染五郎時代の1969年(昭44)に初演されて以来、50年。染五郎、松本幸四郎を経て、18年に2代目白鸚を襲名して、初の「ラ・マンチャ」となる。初演は昭和だったが、平成でも何回も上演し、今回が令和となって初めての上演となる。

「ラ・マンチャの男」会見で左から駒田一、松本白鸚、瀬奈じゅん
「ラ・マンチャの男」会見で左から駒田一、松本白鸚、瀬奈じゅん

60年代は日本のミュージカルの草創期だった。日本初の本格ミュージカルとして63年に江利チエミさん主演で「マイ・フェア・レディ」が上演され、65年に染五郎・越路吹雪さんコンビで「王様と私」が初演された。その時、染五郎は22歳の若さだった。そして、67年に森繁久弥さんの「屋根の上のヴァイオリン弾き」が初演され、その2年後に「ラ・マンチャの男」が登場した。森繁さん、江利さん、越路さんはすでに亡くなっている。

白鸚は「当時上演されたミュージカルは年に1本くらいだった」と振り返る。当時、東宝の演劇担当重役だった劇作家で演出家の菊田一夫さんに「『日本にミュージカルが根付くまで続けよう』とおっしゃっていただいたんです。菊田先生と私の父初代白鸚との出会いが『ラ・マンチャ』上演のきっかけにもなりました。私は『見果てぬ夢』(劇中歌)を2人の男へのレクイエムのつもりで歌っています」。

初演の翌年70年にはブロードウェーから招待され、マーチンベック劇場で海外の俳優の中に交じって主演し、全編英語のセリフで60ステージをこなした。91年には「王様と私」でロンドンをはじめ、英国でツアー公演も行っている。「亡き中村勘三郎君が平成中村座のニューヨーク公演を行った時に電話をかけてきて、『兄さん、あなたはこんなところで何十ステージも主演したのか。あなたは歌舞伎界の野茂だ!』と言ったんです」というエピソードも披露したが、「それらはもう思い出。私はこの先しか見ない。振り返らず、前を見て歩きたい」。

これまでの上演回数は1265回。白鸚は歌舞伎でも「勧進帳」の弁慶を1000回務めている。「もし僕がいなくなった後も、『クリスマス・キャロル』のように、毎年必ず『ラ・マンチャ』の火がともってくれたらうれしい。人間は肉体的には限界がございますが、ドン・キホーテの精神だけはいつの時代にも生き続けてほしい」。これまで数多くの作品に主演してきたが、「ラ・マンチャ」は白鸚にとって特別な作品なのです。【林尚之】

華やかな舞台、輝く役者。夢の世界であると同時に、そこには舞台裏とさまざまな人間模様もあります。演劇、演芸について、林尚之記者がさまざまな切り口から伝えます。あなたも、演劇の世界がきっと好きになります。

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