新聞社にとって誤字脱字(=業界用語で「赤字」とよぶ)の撲滅は永遠のテーマだが、人間が記事を出稿している以上、「ゼロ」にすることはかなり難しい。

新聞社において、管理職時代に「赤字を減らせ」「赤字を出すな」「なんで君は赤字をこんなに出すんだ!」などと鬼の形相で言っていた人が、いざ現場に戻って原稿を再び書き始めると、信じられないような赤字を量産しまくる…などという例は数え切れないくらいある。

結局、人間というもの「他人のミスは目につくが、自分のミスには気づきにくい」という側面があると思われるわけだが、筆者も最近まで赤字撲滅に取り組むための「用字用語委員」を何年か務めており、ことさら「どの記者がどんな赤字を出した」などの傾向と分析をし、改善策を考えるなど、「他人のミス」に目を光らせていた。

別に用字用語委員でなくとも、デスクであれば記者から出た原稿のおかしな点や固有名詞のミスなどを確実にキャッチして修正しなくてはならないから、街角の看板から出版物、ネット上にあふれるSNSの文章を読む時まで、「赤字センサー」がはたらき、間違いをチェックしてしまう“職業病”のような癖が身についてしまった(※といいつつ「他人のミスは目につくが…」の法則により、当日誌も時折赤字を出してしまっているのは恥ずかしい限り)。

前ふりが長くなったが、今回は「驚くべき赤字」ネタを2つほど記したい。1つは先日、X記者から情報提供をいただいた案件。

X記者が関係者より入手した、某中国系企業が中国で売っていたという、日本語の説明もあるジャーキー(乾燥肉)なのだが、袋の表にはカタカナで「ポークジャーキー」と書かれているにもかかわらず、なんと、袋の裏には「ビーフジャーキー」と書かれているのだ。なんでもいいから「ポーク(豚肉)とビーフ(牛肉)、中身はいったいどっちなのか、はっきりさせてくれ!」状態。

中国語で「猪肉」(=豚肉の意味)とも複数書かれているから中身は恐らく「ポークジャーキー」かと思われるが、商品のパッケージでここまで豪快な“赤字”があるものをそのまま販売しているのは、なかなかの感覚といえる。現物は手元にあるが、正直、食べるのを躊躇し、現在に至っている。

商品の袋の表には「ポークジャーキー」、しかし袋の裏を見ると「ビーフジャーキー」。赤字のスケール感がすごすぎる
商品の袋の表には「ポークジャーキー」、しかし袋の裏を見ると「ビーフジャーキー」。赤字のスケール感がすごすぎる

もう1つ、思わずずっこけそうになった例としては、都内の某中華料理店でのこと。店先の宣伝看板に「特選お勧め料理」ではなく、「特選お勧め理料」と大きな文字で書かれていた。一瞬「お勧め理科って何だ???」と間違えたほど。

某中華料理店の宣伝看板に書かれていた「特選お勧め料理」ならぬ「特選お勧め理料」の文字…細かいことを気にしない姿勢に心理学的興味が沸き起こる
某中華料理店の宣伝看板に書かれていた「特選お勧め料理」ならぬ「特選お勧め理料」の文字…細かいことを気にしない姿勢に心理学的興味が沸き起こる

ひょっとしたら「料理」を「理料」とひっくり返して書く語法がどこかで存在しているのかもしれないが、都内ではたぶん聞かない言葉。よって店サイドによる“赤字”だと推察されるが、その看板をそのままにしておくというある種の“おおらかさ”に、むしろ関心を抱いてしまった。

調子に乗って他人の赤字にえらそうにツッコミばかり入れていると、自分が恥ずかしいミスをした際、かなり情けない状況になるので、今回はこの辺にしておきたい。

【文化社会部・Hデスク】