ダンサー田中泯(76)が29日、都内で、主演映画「名付けようのない踊り」(犬童一心監督)の公開記念舞台あいさつに出席した。

17年8月から19年11月まで、ポルトガルなど3カ国33公演での、田中の踊りと生きざまに迫る作品。05年の映画「メゾン・ド・ヒミコ」への出演オファーをきっかけに交流してきた犬童監督が手がけた。

田中は「大勢の人に見てもらえるという非常に不思議な気分でいます。この1、2カ月、不思議な気分」と公開した心境を明かした。続けて「ぼくにとっては田中泯の話ではなくて、映画全部が語っているように、踊りというものがぼくにもたらせてくれたたくさんのものに全身で感謝するということ」と哲学的に映画の意義を語った。

デジタル化など、再生装置の発展が著しい美術や音楽、演劇などさまざまな表現方法のうち、踊りは「最も原始的な形態」だとし、「踊って、それを見る人がいて。それが唯一の方法です」。

さらに「人間だけがそこにいるわけじゃなくて、地面もいるし、植物、動物、空、太陽、月、星がまさに動き回っている。空気が動き回っている。ぼくの体や見る人の体にふれて空間を作っている。そういうものが映らない映像がつまらないものとみていました。ビデオテープで映しているのは大嫌いでした。ちっともおもしろくないと。ましてや人様にみせようなんて思ってもいなかった。犬童監督はそれをしっていて、それでも撮影してくださった。素材として面白い踊りを作り直してくれた。再生装置は犬童監督なんです」と感謝した。

踊りは、言語が発明される以前からあった人間のコミュニケーション手段だとし、「頭で考える以上のことが無言の世界では猛烈な勢いで起きています。それが踊りの世界と関係していると思います」と壮大なスケール感で考えている。

その上で「これからも踊りを死ぬ瞬間まで踊り続ける。ぼくの師匠がそうでした。それだけは継承したい、実現したいと思っている」と誓った。

犬童監督も出席した。