毎晩のように目を疑うようなニュースが飛び込んできます。コロナ禍ということを失念してしまうような大きな事で、この時代に本当に起きていることなのか、と思わせるロシアのウクライナ侵攻。歴史的な要素など多くのことが背景にはあると思うのですが、言葉がありません。フットボール界においても関係者の方々が戦禍に命を落としたニュースを目にすると、本当に心苦しく思います。今回はそんなウクライナリーグのクラブをファイナンス面からのぞいてみたいと思います。
ウクライナリーグはUEFAリーグランキングでもここ数年常にトップ10に名を連ねるレベルの高さを誇り、代表的なチームとしては、チャンピオンズリーグでも結果を残してきたディナモ・キエフ、シャフタール・ドネツクの2チームがあります。ディナモ・キエフはご存知の通り、ウクライナ人バロンドーラーであるアンドリー・シェフチェンコを輩出したことでも有名で、その名の通りキエフを拠点に置いているクラブです。今回はもう一方のクラブ、シャフタール・ドネツクです。ウクライナの東部に位置し、ウクライナで5番目の大きさを誇る都市ドネツクにあります。現在マンチェスター・シティで活躍するジンチェンコがユース時代に過ごしたクラブでもあります。シャフタールは炭鉱という意味があり、ここからも想像できるように、ドネツクは工業都市として発展してきました。この地域は2014年に現政府に反発している反政府組織が独立宣言をしており、同じく東部のルガンスク人民共和国、クリミア共和国と共にロシアをバックに現ウクライナに反発している地域ということになります。実はフットボール界もこの影響を強く受けています。2009年にドネツクにマンチェスター・シティやバイエルン・ミュンヘンの本拠地スタジアムを設計したアラップ社が新スタジアムを設計。その建設費は4億ドル(約450億円)規模と言われており、ガラス張りの壮麗な外観で"宝石"と呼ばれ、2012年の欧州選手権(ユーロ)でも使用されるなど話題になりました。しかし2015年夏に起きたウクライナ軍とドネツク人民共和国との衝突で本スタジアムにも大きな被害が発生。これを受けて閉鎖となってしまいました。同時にチームは拠点をキエフに活動の場を移し、ホームゲームはリビウで行なわれるようになりました(その後ハリコフへ移動)。
クラブの売上は16−17シーズンで約35億円。17−18シーズンには約70億円を記録。大きく数字を伸ばしています。その大半が選手のレンタル費用による計上である事を見ると、タイミング的にも欧州サッカー連盟(UEFA)のFIFAファイナンシャルフェアプレー(FFP)が動き始めた時期と重なるので、赤字補てんは選手をレンタルすることでなんとか対応したということになるでしょうか。この17−18シーズンはCLでベスト16に進出し(惜しくもローマに敗戦し敗退)、シーズン終了後には活躍した選手も売却できたタイミング。ブラジル人MFフレッジが活躍し、シーズン終了後に契約が切れたタイミングとは言え、約75億円とも言われる巨額でマンUに売却。そもそも20億円近くで買い付けてきた選手が3、4年で4倍になって売れたわけで、さらにCLの分配金も入るなどしていますから18−19シーズン以降、未来は明るいものとされていました。しかし、そこにコロナ・パンデミックが到来。そしてこの紛争が重なり、それどころではないことは想像がつきます。2020年の8月にクラブのCEOが現地メディアのインタビューで過去の負債がちょうどなくなったところだと発言。新スタジアムではシーズン終盤のリーグ戦のタイトル争いにおけるチケット収入で年間10億円近く売上を見込めていたとのレポートもあり、クラブとしてはこれらを失ったことが本当に大きな損失になりました。チャンピオンズリーグもホームスタジアムを使っていたらローマに勝てていたかも(?)と思うと、悔しさが増します。
今、リーグ戦は中断していますが、一刻も早く再開し、そしてフットボールが新たな希望となり、ウクライナの地に光を照らして欲しいものです。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」




