1カ月以上の戦いを終えて、アジアカップ(杯)が閉幕した。結果は準優勝。昼は真夏のように太陽が差し、日が暮れれば肌寒くなる1月のUAEで森保ジャパンを追った。全7試合。今、ノートを見返すと何度もこう書いてあった。「乾ベンチを立って原口と話す」「槙野ベンチから声を掛ける」「東口水を渡す」…。今大会、無くてはならなかった控え組の行動だ。

顕著だったのは決勝のカタール戦。1点を追う前半23分だった。相手選手が倒れてプレーは一時中断。その時、DF槙野とMF乾がベンチを立ってピッチ脇から声を掛けた。すると、次々とベンチから選手が。すぐに全員並んだ。今の森保ジャパンを象徴する一体感ある行動だったと思う。だがこの4分後、痛恨の2失点目を浴びた。そして試合後、乾は取材エリアでこう話していた。

「(大迫と南野の)2トップが3バックを見ちゃっていた。そうだと絶対はまらない。そうじゃなく(原口)元気と(堂安)律がもうちょっと(相手の)サイドにつくんじゃなくて、センターバックをけん制するでもいい。ベッタリつく必要はないけど(大迫と南野の)FWを助けてあげないとあんな感じになっちゃう。見ていて分かっていたけど、なかなか外から指示も出せなかった。でももっと言うべきやった。2失点目入る前に言うべきやった。ベンチメンバー含めそういうところが甘かった」

この言葉を聞いてふと思った。「なぜ言わなかったのか」。実際、2失点目の4分前に1度プレーは止まってピッチ内外で会話は行われていた。私は取材エリアの端で乾を止め疑問をぶつけた。乾は「んー…タイミング、難しかったよね」と答えた。

タイミング-。実は決勝トーナメント1回戦のサウジアラビア戦で前半に、乾は原口に守備についてベンチから助言していた。だが、この時2人の考えが一瞬ではかみ合わなかった。初戦の後、乾は「ハーフタイムに元気の考えも聞いて、やり方があるって分かった。でも、気付いたことは伝えていく」と話し、原口も「貴士君的にはもうちょっと前で我慢した方がいいんじゃないかということだったけど、逆サイドから(DFの)裏に入るシーンがあったので、それは怖いなと。両方やり方があると思う」と分析していた。

その後決勝まで、乾を筆頭にベンチから適したタイミングで適した助言を探ってきたと思う。決勝の場面は決して“怠慢”で言わなかったわけではなく、ピッチ内のことも尊重した結果。そして後悔したことで、いい判断材料を得たとも言える。

今大会、控え組の振る舞いはW杯ロシア大会と重なった。率先してベンチから声を出したり、試合後のロッカー室を掃除したり。それは本田らが残した“財産”だ。ロッカー室を掃除する理由を乾は「俺はW杯で(本田)圭佑君だったりマキ(槙野)もそう。そういうの俺は見てきたし(W杯の時は)出ている選手の責任感を俺は感じていた。そういう大切なことがあるんじゃないかな」と話した。

いきなり完璧に“財産”を受け継ぐことはできないかもしれない。だけど、たとえ傷ついても根気よく磨けばきっと輝くはず。初戦から合わせて7試合。23人は諦めずに試行錯誤していた。まだまだ原石の森保ジャパン。決勝の失点で生まれた悔いは必ず3年後のカタールでのW杯へつながってくるだろう。【小杉舞】


◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)6月21日、奈良市生まれ。大阪教育大を卒業し、14年に大阪本社に入社。1年目の同11月から西日本サッカー担当。W杯ロシア大会を現地で取材。担当クラブはG大阪や神戸、広島、名古屋、J2京都など。

練習前、仲良く計測器をつけ合う日本代表選手たち。左から乾、長友、槙野、堂安(2019年1月31日撮影)
練習前、仲良く計測器をつけ合う日本代表選手たち。左から乾、長友、槙野、堂安(2019年1月31日撮影)