鹿島アントラーズが鹿嶋市とタッグを組み、ふるさと納税型のクラウドファンディングに取り組んでいる。締め切りまであと1週間に迫った24日現在、寄付総額は9583万円。達成率95%と、目標の1億円が見えてきている。

プロジェクト達成のための資金調達に使われるクラウドファンディングだが(今回の場合プロジェクトは「経営維持」)、ふるさと納税の要素を組み込むことで、出資者の負担を減らすことに成功している。分かりやすく言えば「税金を使ってアントラーズに募金ができる」という感覚だ。

アントラーズにとっては願ってもない話だが、鹿嶋市としては本来得られたはずの税収が入らず、損をしてしまうのではないか? 詳細に迫った。

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そもそも、ふるさと納税を活用するアイデアはどこから来たのか。鹿嶋市とアントラーズは、昨年末ごろから「ふるさと納税を使って地域を応援できないか」と議論していたという。

実際に動きだしたのは今年2月。鹿嶋市とアントラーズ、親会社メルカリが、スマートシティ事業の推進などを通じた地域の課題解決を目的とする「地方創生事業に関する包括連携協定」を結んだ。この事業の資金調達手段として、ふるさと納税の活用を検討していたという。そこにコロナ禍が重なり、3月ごろにはアントラーズを支援する方向にかじが切られた。

実際にクラウドファンディングが始まったのは6月。わずか3カ月で目標1億円のビッグプロジェクトが動きだしたように見えるが、アントラーズで本件を担当している齊藤さんは「数カ月で完成させたわけではない。30年積み重ねてきた行政との関係値がある」と話す。

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海に面する鹿嶋市は、もともと半農半漁の地域。都心からも距離があり、陸の孤島と呼ばれていた。

1960年代になると、茨城県が「30万都市」を目標にこの地域の開発に着手した。アントラーズの母体となった住友金属などの重化学コンビナートを誘致し、臨海工業エリアとして発展させると、首都圏や関西圏から次々に人が移り住んできた。

しかし「新住民」と呼ばれた彼らは、娯楽のない田舎町を物足りなく思い、行政に意見をぶつけていた。一方、開発のため海沿いの土地を提供して内地に引っ越した「旧住民」は、ライフスタイルが激変。彼らもまた、新住民に対する不信感を抱いていた。

そこにJリーグ発足の話が舞い込んだ。地域を活気づけるプロスポーツクラブは、新住民と旧住民、双方が共通して熱狂できる地域の“顔”となりうる存在だった。労働力を確保したい住金にとっても、地域の魅力アップは課題のひとつ。鹿嶋エリアにとって、アントラーズは希望の星だった。

鹿嶋市役所で今回のプロジェクトを担当している茂垣さんは、「官民連携でできあがったチームというのは、鹿嶋市の職員も認識している。上の年代になるほど当時を知っている人がいる」と話す。ふるさと納税型クラウドファンディングの開始にあたり市役所内での反対意見はなく、スムーズに話が進んだという。

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プロジェクトが立ち上がって以降も、現在に至るまで苦情やクレームは1件もないという。「街のシンボル的な存在で、当たり前のように日常にあったアントラーズが苦しんでいるならば、自分たちの力で支えたい。コロナにも負けてほしくない気持ちがあるんだと思う」と茂垣さん。納税者である地域住民の理解も得ている。

もちろん、鹿嶋市にとっての金銭的なプラスはゼロだ。茂垣さんは「1億円のうち、(クラウドファンディング運営サイトの)Ready forに手数料と事務経費を払った残り全額がアントラーズに行く」といい、齊藤さんも「ポストコロナに向けて地域を元気づける取り組みを考えているが、それが鹿嶋市へのお礼にもなる」と話す。

地域とクラブの深い結びつきが生んだ、ふるさと納税型クラウドファンディング。アントラーズにとっては、この地域とのつながりこそが何にも替え難い財産なのだろう。【杉山理紗】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆鹿島アントラーズクラウドファンディングプロジェクト https://readyfor.jp/projects/antlers_GCF2020