元日本代表監督の岡田武史氏(59)がオーナーを務める四国リーグFC今治が、個性派の新監督を迎えた。吉武博文氏(55)。11年のU-17(17歳以下)W杯メキシコ大会では日本を18年ぶりの8強に導いた。初めてクラブチームを率い、JFL昇格に挑む知将の1年を不定期連載で追う。

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 吉武は、地域リーグでは異例の約40人の報道陣を前にマイクを握っていた。19日、今治市内で行われたFC今治の方針発表会。監督として登壇し、至上命令のJFL昇格へ「重圧はあるが、観客をとりこにするサッカーを追求したい」。かつて世界の舞台で戦った男は落ち着き払っていた。

 オーナーの岡田から「かあちゃん」と呼ばれる。昨年から今治市内に借りた一軒家で共同生活。朝8時にミーティングが始まり、サッカー談議は、深夜まで及ぶ。会見では「今日は遅くなる」(岡田)「先にお風呂入ってます」(吉武)という、まるで共働きの夫婦のような日常も明かされた。

 17人が退団、16人が加入した新チームを任されて3週間になる。4月の四国リーグ開幕に備える宮崎キャンプを終え、JFL切符を争う11月の地域リーグ決勝大会に向けた強化の真っ最中。今まで育成畑を歩み、クラブのトップチームを率いるのは指導歴34年目で初めて。「本当に楽しい。1日が短い」と笑顔で話す。

 リオ五輪出場を決めたU-23日本代表の鈴木や植田を発掘し、11年のU-17W杯で18年ぶりの8強に導いた。13年の同大会は平均ボール保持率68%という驚異的な数字を残して16強。14年に退任すると岡田から誘われた。肩書はFC今治のメソッド事業本部長。仕事は、バルセロナなどの一貫指導法を基に日本人の組織力を最大化するサッカーの型「岡田メソッド」の構築。その責任者だった。

 試行錯誤した昨季は地域リーグ決勝大会1次ラウンドで敗退した。4時間後、早くも翌年を見据えた会議が開かれ、岡田から言われた。「何が足りないか考えなさい、という神様からのメッセージだ」。課題を突き詰める中、岡田メソッドの開発から実行に移す段階に入り、監督に昇格した。

 驚異のポゼッションで世界を驚かせた男が、日本の5部相当のリーグから再挑戦する。「ここでは毎日、練習できる。指導対象も大人。当然、U-17代表時代よりもバージョンアップしたサッカーを構築して、お見せしないといけない」。

 四国リーグの開幕戦まで1カ月強。吉武の1年を追う。(敬称略)【木下淳】

 ◆吉武博文(よしたけ・ひろふみ)1960年(昭35)6月8日、大分県生まれ。大分上野丘高、大分大、同大学院をへて83年に中学教諭に。85年に赴任した明野中サッカー部を全国大会優勝に導く。Jリーグ大分U-15コーチなどを歴任し、01年にS級ライセンス取得。06年に教職を離れ日本協会入り。U-18代表を皮切りに15~17代表監督を歴任、14年に退任。家族は妻と1男2女。